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ペガサスの少女 その14

 翌朝、ペガサス族と和解したボンゴ族たちは、族長のボボンゴら数名を残して、ペガサス族の村を去っていきました。

彼らは、クラーケンのいなくなった故郷の海に戻り、自分達の村を再建するのです。

そして、村を出る事を決めたシュナン一行にも、出立の時がやって来ました。

荷物をまとめて、村の出口までやって来たシュナンとメデューサを、大勢のペガサス族の少女たちが、見送りのために待ち構えています。

少数ですが、ボンゴ族の姿もありました。


「シュナン君、行っちゃうの?淋しいなー」


「絶対、また戻って来てねー」


「それまで、童貞捨てちゃ、駄目だよー」


なんだか、不謹慎な別れの言葉も混ざっていましたが、メデューサはこれが最後だと思い、旅人の杖を握りしめて、なんとか我慢しました。

一方、その隣に立つシュナンは、見送りのために集まってくれた人々の中に、村の長レダとボンゴ族の族長ボボンゴの姿が、見えない事に気づきます。

彼らに挨拶をしようと思っていたシュナンは、近くにいるペガサス族の少女に聞きました。


「レダとボボンゴの顔が見えないけど・・・」


その時でした。

シュナンとメデューサの背後から、レダの明るい声が響いて来たのです。


「あたし達なら、ここにいますよ。シュナン、メデューサ様」


シュナンとメデューサは、後ろを振り向くと、びっくり仰天しました。

なんとそこには、旅支度を整えた、レダとボボンゴの姿がありました。


「あたし達も、あなた方の旅に同行します!よろしくお願いしますね!!」


紐のついた荷物入れを、肩に下げたレダが、高らかに宣言します。

彼女はいつも通り、革製の黒色のビキニを身に付け、足には同じく、革製のロングブーツを履いていました。

そして両肩には、大きな肩パッドを装着しており、腰には長剣を下げていました。

首筋には族長の印である、宝石の付いた装飾具を、巻いています。

一方、ボボンゴはすごく大きな荷物を背負っていて、その巨体に、ギリシャ風の腰巻きと肩掛け布をまとい、足には、丈夫な麻で編んだ靴を履いています。

2人は、唖然となっているシュナンとメデューサに、歩み寄ります。

そして今度はボボンゴが、びっくりしているシュナンとメデューサに、言いました。


「俺たち、2人に借りある。受けた恩、ちゃんと返す。これボンゴ族の掟」


思わず顔を見合わせる、シュナンとメデューサ。

絶句している2人の代わりに、シュナンの持つ師匠の杖が、レダとボボンゴに話しかけます。


「いいのかね、二人とも。命懸けの、危険な旅になるぞ。特にこの先に、最大の難所が待っている」


レダとボボンゴは、真剣な表情で頷きます。


「わかってるわ。厳しい旅になる事は。でもやっぱり、わたしは2人をお助けしたい」


「ボボンゴ、危険は恐れない。必ず、恩返す」


彼らの真摯な思いを聞いたシュナンは、その目隠しをした顔を、横に立つメデューサの方へ向けて、言いました。


「どうするメデューサ?僕は、有り難い話だと思うけど。道案内も、してくれるだろうし」


メデューサは、その蛇で覆われた顔を、少しうつむかせて答えます。


「わかった・・・。まぁ、いいんじゃない」


メデューサは、基本的にぼっち体質で、人見知りなので、旅のメンバーが増える事に、少し抵抗がありました。

でも、この2人が、そろって部族の長に選ばれるほど智勇に秀で、人格も優れているのは、メデューサにも、ここ数日の出来事で、よくわかっていました。

きっと両者の参加は、今回の旅において、大きな力になるに違いありません。

だからメデューサは、少し戸惑いながらも、彼らの同行を了承したのでした。

レダがシュナンに、少しべったりなのは、気になりましたがー。

メデューサの同意の言葉を聞いたボボンゴは、嬉しそうに笑顔を浮かべて、メデューサとシュナンの肩を、ポンポンと順番に叩きます。


「よろしくな、シュナン、メデューサ。いい旅にする。ボンゴ頑張る」


レダもメデューサに、手を差し出して言いました。


「よろしくお願いします。メデューサ様」


その手を取って、メデューサが答えました。


「メデューサでいいわ。わたしも、レダと呼ぶから」


レダが、にっこりと微笑みます。


「わかったわ、メデューサ。これから、わたしたちは、旅の仲間ね」


レダは、メデューサと握手した、その手を、更に強く握ります。

メデューサも頷きながら、手を握り返しました。

その様子をシュナンやボボンゴ、そして周囲にいるペガサス族やボンゴ族の人々が、暖かい目で見守っていました。


こうしてシュナンとメデューサは、新たに力強い仲間達を加えて、旅を再開する事になりました。

4人の出発を、ペガサス族の少女たちと、村に残った少数のボンゴ族が、名残惜しそうに見送ります。

出発の前、レダは信頼できる友人であり、また村のアイドルグループ「UMA」の一人、通称スペちゃんの手をしっかりと握り、後の事を託しました。

それからシュナンたち4人は、村を囲む柵の門を出て、いよいよ旅へと出発しました。

村を囲む柵の門を出て山道を歩き、旅へと出発した4人の後ろ姿を、残された者たちは、柵の中から懸命に手を振って、別れを告げます。

やがて、彼らの姿は豆粒のようになり、山道のその先にある、峠の向こう側へと消えていきました。


「良き旅で、ありますようにー」


村の中にいる、誰かが言いました。


[続く]

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