ペガサスの少女 その12
満天の星空の下ー。
シュナンと、ペガサス族の長であるレダは、無数の星々の光が降り注ぐ、村の中にある、高い丘の上に立っていました。
実は、この少し前に、宴会場でレダが、話があるからと、この場所まで、シュナンを連れ出したのでした。
レダが後ろ手を組み、星空を見上げながら、言いました。
「綺麗でしょう。この辺りは、空気が澄んでいるから、特に星が綺麗に見えるのよ」
シュナンも感心して、うなずきます。
もっとも、彼は目が見えないので、夜空を見るのも、その手に持つ、師匠の杖を通して見ていました。
それでも、彼の脳裏に投射された景色は、今までに見た事がない、美しく鮮烈な夜空でした。
「確かに、素晴らしい。すべての星座が、ハッキリと見える。金星なんて、まるで第二の太陽のようだ。太陽神アポロンと、金星の美の女神ビーナスが、並べられて信仰されている訳が、よく分かる。でもー」
シュナンは、丘の上から見える、夜景に感動しながらも、レダに尋ねます。
「君が話したいことって、何だい?宴会場では、話せない事?」
レダは、ちょっとためらいながらも、上目遣いでシュナンを見つめ、言いました。
「シュナン、この村に残らない?無謀な旅はやめてー。もし、よければ、メデューサ様も一緒に」
シュナンはレダの提案に驚きながらも、やがて、その目隠しで覆われた顔を、左右に振って言いました。
「ありがとう、レダ。僕たちを、受け入れてくれて。でも、我々には「黄金の種子」を手に入れるという使命がある。すべての人々のためにー。だから、この村に、とどまる訳にはいかないよ」
シュナンの持つ師匠の杖も、レダに対して言いました。
「そうだ。シュナンには、崇高な使命があるのだ。この村に、とどまる訳にはいかん」
レダは、その喋る杖をひと睨みしてから、尚も、シュナンの顔を見つめて言いました。
「でもシュナン。このまま旅を続ければ、あなたとメデューサ様は、大きな危険と試練に、見舞われる事になる。わたしには、それが解るの。それより、そんな危険な旅はやめて、わたしたちと一緒に楽しく暮らしましょう。絶対、その方がいい。それにー」
レダは、ちょっと言いにくそうな表情で、言葉を続けます。
「悪いけど、わたし、人間という種族が、あまり好きじゃないの。もちろん、あなたは別だけどー。とてもあなたが、命がけで助ける価値がある存在とは、思えない。彼らは、周囲の自然を自分勝手に破壊し、おまけに同族同士で争い、憎しみ、殺し合ってる。神々の罰で、四度も滅ぼされかけているのに、懲りずに同じことを繰り返してー。本当に、信じられない。特にー」
レダはそう言うと、ビシッと、シュナンの持つ杖を指差しました。
「そいつは、絶対に、信じちゃ駄目」
レダの指弾を受けた師匠の杖は、その円盤状の先端についている、大きな目を光らせ、言いました。
「やれやれ、若い女は、疑い深くていかん。わしはシュナンを、手伝っているだけだよ」
レダは更にきつい目で、師匠の杖を、睨みつけます。
両者の視線が、空中でぶつかって、目に見えない火花が散りました。
師匠の杖は、言い訳するような口調で、人間をかばう弁護をし始めました。
「人間は、偉大な生き物だよ。自然を支配して、神々に並ぶ力を、手に入れようとしている。科学技術の発達によって、その力はますます強くなる。やがて人類は、他の種族を圧して、地球の支配者となるだろう」
しかし、レダは、その言葉に首を振ります。
「自然は支配するものではなく、共存すべきものよ。かけがえのない存在なのだから。たとえ、どんな強い力を持っていたとしても、自分の住んでいる、たった一つの家を壊すような生き物は、賢いとは言えない。海に住んでる、あの、お馬鹿なヤドカリでさえ、そんな事はしないー」
「・・・・・・」
シュナンの持つ師匠の杖は、押し黙ってしまいました。
一方、シュナンは、そんな2人のやり取りを、戸惑いながら見つめていました。
しかし、やがて夜空を見上げ、満天の星を見つめると、今度は隣に立つレダの方を振り向き、自分の気持ちを、彼女に打ち明けました。
「レダ、僕はー」
[続く]




