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ペガサスの少女 その7

 さて、シュナン一行が、ぺガサス族の村に迎え入れられた、翌日の朝の事です。

山をいくつか越えた、ボンゴ族の村では、族長のボボンゴが、村人の一人から、驚くべき報告を受けていました。


「大変ですぜ!お頭っ!!ペガサス族の連中が、押しかけて来ました!!」


地面に太い支柱を立て、その上の高い位置に作られた、ボンゴ族の伝統様式で建てられた家でくつろいでいた、ボンゴ族の長ボボンゴの元に、急を知らせる為に、同族の男が駆け込んで来たのです。

ボンゴ族の族長ボボンゴは、身の丈2カール(約2.3メートル)を越える巨漢で、尖った耳と突き出た二本の牙、そして緑の体色の身体を持つ巨人族の末裔で、その力と統率力で、部族を上手く取りまとめていました。

しかし、最近の彼は、生活拠点である故郷の海を、怪物に奪われた事に端を発する、近隣のペガサス族との、海岸部の土地をめぐる、部族間の縄張り争いに、頭を悩まされていました。

そして、なんと今、その一方の当事者である、ペガサス族の長、レダが、仲間たちと共に、この村までやって来たというのです。

あの赤髪の、美しい少女がー。

ボボンゴは、その巨体をすくっと立ち上がらせると、足元にひざまずく、部下の男に言いました。


「よし、ボボンゴ行く。レダ、何の為に来たか、確かめる」


その頃、ボンゴ族の村の入り口までやって来た、ペガサス族の族長レダ、そして彼女に付き添うシュナンとメデューサは、ボンゴ族の村人たちに、ぐるりと取り囲まれていました。

彼らはボボンゴ族と交渉するために、危険を顧みず、たった三人だけで、この敵地までやって来たのです。

シュナンはいつもの様に、紺色の魔法使いのマントを身にまとい、師匠の杖を、その手に持っていました。

レダも、いつもの革製の黒ビキニ姿で、両肩には大きな鎧みたいなパッドを付け、今日は腰に、長い剣を装着しています。

そして、メデューサは、ペガサス族の村で手に入れた、フード付きの黒マントを羽織り、シュナンの側に寄り添って立っています。

メデューサは、その蛇の髪の毛を、マントのフードを目深くかぶって隠しており、はた目には、ゆったりとしたマント姿の、背の低い、ただの女の子に見えました。

ボンゴ族の男たちは、木の柵で造られた村の出入り口付近に佇む、彼ら三人を取り囲んで、敵意に満ちた視線で、その姿を睨みつけています。

そして、とうとう我慢出来ずに、包囲しているボンゴ族の中の一人の男が、手に持つ棍棒を振りかざし、彼らに襲いかかりました。


「このガキどもっ!!くたばれっ!!」


しかし、ペガサス族のリーダーであり、最強の剣士でもあるレダは、シュナンとメデューサをかばう様に前に出ると、ボンゴ族の男の攻撃を物ともせず、彼の振り下ろした棍棒を軽くかわすと、腰につけた長剣を稲妻のように抜き放ち、峰打ちで男の巨体を、激しく打ち据えました。


「ぐわあぁーっ!!」


たちまち気を失って、地面に倒れる、ボンゴ族の男。


その光景を見た、ボンゴ族の村人達は激昂して、次々とレダに襲いかかります。


「この小娘がーっ!!」


「くたばれーっ!!」


「生かして、帰さんっ!!」


その時ー。

レダに襲いかかった、数人の男たちに、ついに彼女の必殺剣が炸裂します。

それは、音速を超える無数の斬撃を、一瞬の間に繰り出す、ペガサス族に伝わる、恐るべき秘剣でした。


「ペガサス流星剣っ!!!」


レダの叫びと共に放たれる、彼女の神速の峰打ちで、男達の身体は次々とはじけ飛び、気絶して地面に倒れ込みます。

男達の命をあえて奪わないのは、彼女の優しさであり、またボンゴ族との交渉がやりにくくなるという、理由もありました。

そして、レダの隣にいるシュナンもまた、手に持つ師匠の杖を高く掲げて魔法を使い、赤髪の少女を助けます。

シュナンの杖の一振りで、地面に複数の火柱が走り、ボンゴ族を驚かせます。


「ぐわーっ!!」


「熱い!!」


「こいつ、魔法使いだーっ!!」


やがて、村の出入り口に近い、その場には、レダやシュナン達の足元に、何体もの気絶したボンゴ族の巨体が転がり、それを遠巻きにして、他のボンゴ族が彼らを取り囲む、異様な光景が出現しました。

ボンゴ族は、レダの剣技とシュナンの魔法を恐れて、なかなか彼らに、近寄れないみたいでした。

しかしボンゴ族の連中は、今度は彼らに一斉に襲いかかろうと、徐々に包囲の輪を縮めていました。

さすがにレダ達も、数十人の屈強な巨人の群れに、同時に襲われれば、どうなるか分かりません。

それに彼らは、争うために、この場所に来たわけではありませんでした。

それぞれ杖と剣を構え、巨人族の動きを警戒しながらも、事態をどう打開するか、懸命に考える、シュナンとレダ。

そんな彼らの背後から、スッと前に出て、包囲するボンゴ族の、正面に立ちはだかる者がいました。

それは、今までシュナンたちに守られながら、彼らの背中越しに、事の成り行きをずっと静観していた、メデューサでした。

フードのついた、大きめのマントを羽織っていて、それで、蛇の髪の毛と顔を隠しています。

彼女はこのままでは、さすがにシュナンたちが危ないと考えて、ついに自分が矢面に立つ、決心をしたのです。

メデューサの意外な行動に驚く、シュナンとレダ。


「お、おい、メデューサ。何をー」


「メデューサ様ーっ」


慌てて、メデューサの背中に声をかける、シュナンとレダ。

しかし、シュナンたちを背にして、彼らとボンゴ族の巨人たちの間に立ち塞がるメデューサは、仲間に声をかけられても後ろは振り返らずに、逆に目深くかぶったフードの中から、正面の方を睨み付けます。

そして、自分たちを取り囲むボンゴ族を、怒鳴りました。


「やあやあ、我こそは張飛翼徳・・・じゃなくてっ!族長を、出しなさいっ!!」



シュナンたちを遠巻きにしている、ボンゴ族の連中は、最初は小柄なマント姿の女の子が、いきなり前に出て来て、自分たちを怒鳴ったので、かなりビックリしました。

しかし、すぐに殺気をみなぎらせ、罵声を発します。


「族長が、お前らなんかに、会うもんかっ!!」


「そんなフードで、顔を隠しやがって!!」


「よっぽど、ブスなんだな!顔を見せろっ!!」


ボンゴ族は、フード付きのマントで、顔と身体をすっぽりと覆ったメデューサに、次々と悪口を浴びせます。

しかしメデューサは、シュナンとレダが心配そうに見守る中、ゆっくりマントのフードに手をかけて、隠されていた、その頭部を露わにしました。


「そんなに見たいなら、見せてあげる。「ブス」かどうか、自分の目で、確かめてみなさい」


メデューサの、蛇の髪で覆われた顔が、周囲の視線にさらされます。

一瞬にして、その場の空気は凍りつきました。

そして、その直後、パニックになったボンゴ族の悲鳴が、あちこちから上がり、彼らは包囲を解いて、姿を露わにしたメデューサの前から、後ずさりをします。


「メ、メデューサだ!!!」


「伝説の怪物だ!!逃げろっ!!」


「石にされるぞっ!!!」


メデューサの石化能力の恐ろしさは、伝説となって、ボンゴ族の間にも、伝わっていました。

ボンゴ族の連中は、先程までの威勢は何処へやら、我れ先に押し合いながら、メデューサやシュナン達に背中を向け、村の奥へと逃げ込もうとして、一斉に駆け出しました。

恐怖に我を忘れた彼らは、逃げ出す最中に、体同士が互いにぶつかり、弾き飛ばされたり、将棋倒しになって倒れる者が、続出しました。

メデューサは、そんな慌てふためくボンゴ族の様子を、蛇の前髪の下から無言で見つめ、傍らにいるシュナンとレダも、戸惑いながら、その場に立っています。

シュナンの持つ師匠の杖が、言葉を発します。


「やれやれ、滅茶苦茶だな」


その時、メデューサから逃げる為に、我れ先に押し合って、村の奥の方へと駆け出そうとする、ボンゴ族の男たちに向かって、どこからか、鋭い怒声が飛んで来て、辺り一面に響き渡りました。


「逃げる、見っともない!!やめるっ!!おまえら、ボンゴ族の恥っ!!」


思わず逃げるのをやめて、その場に立ち止まる、ボンゴ族の男たち。

そして彼らは、村内からやって来て、今しがた自分たちを怒鳴りつけた人物の為に、左右に移動し、大きく道を開けます。

逃げ出そうとしたボンゴ族の間を、かき分ける様に、その人物は、シュナン一行の前にやって来ました。

彼の周りには、数人の取り巻きがおり、シュナンたちを睨んでいます。

そう、一瞬で、動揺するボンゴ族を黙らせて落ち着かせた、その人物こそ、村の中から騒ぎを聞きつけ、ここにやって来た、ボンゴ族の族長、ボボンゴだったのです。

ボボンゴは一族の中でも、一際、逞しい体躯の持ち主で、その緑色に光る筋肉は、まるでエメラルドの様でした。

獣皮で作った腰布を、下半身に巻いており、足には、雪駄に似た靴を、履いています。

そして、その太い両手両足には、バンテージのように包帯を巻いていて、首には武器にもなる、太く長い鎖を下げています。

ボボンゴは、その緑色の巨体で威圧する様に、シュナンたちの前に立ち、彼らをギロリと見下ろしました。

彼はまず、マントのフードを外してその正体を現した、メデューサの蛇の前髪で覆われた顔を、チラリと見やると、フンと鼻で笑いました。

伝説の怪物を目の当たりにしても、彼はまったく、恐れていないようです。

そして更に彼は、隣に立つ、目隠しをした杖を持つ魔法使いの少年シュナンを、いちべつしてから、最後に仇敵である、ペガサス族の若き族長レダの方を向き、彼女と目を合わせました。

レダも負けじと、ボボンゴの巨体を見上げ、睨みつけます。

やがてボボンゴが、その牙の生えた口でニヤリと笑い、言いました。


「レダ血迷ったか?怪物と魔法使い、味方につけて。俺たち、脅しに来たか?」


ボボンゴから目を離さず、首を軽く振りながら答える、レダ。

彼女の赤髪のポニテが、左右に揺れます。


「違う。話し合いに来たのよ、ボボンゴ。隣にいるシュナンが、あなたと話したいんだって。でも、あなたの村の人たちがー」


レダは足元に転がっている、まだ気絶しているボンゴ族の男たちを見下ろし、肩をすくめます。

ボボンゴは自分と、彼と向き合うレダたちとの間に横たわる、気絶した仲間たちを、軽蔑する様にいちべつし、足先で軽く小突きました。


「情け無い、こいつら、ボンゴの恥」


そして彼はレダの隣にいる、シュナンの目隠しで覆われた顔を、あらためて見つめ、言いました。


「魔法使い、話、何だ」


今は、周りにいる他のボンゴ族や、それにシュナンの両隣りのレダとメデューサも押し黙り、両者の話し合いを、固唾を飲んで見守っています。

やがて、ボボンゴに対峙していたシュナンは、自分の持っている杖を掲げて、その先端を、ボボンゴの方へ向けました。

すると、その杖から、声が発せられました。


「巨人族の末裔よ。一つ、提案がある」


「杖・・・喋った!」


さすがのボボンゴも、少し驚きます。

そして、師匠の杖が喋った事に驚いている彼に対して、今度はその杖を掲げる、シュナン少年が言いました。


「君たちの海を奪った怪物を、みんなで倒そう。海獣クラーケンをー」



[続く]

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