表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

ペガサスの少女 その6

 さて、UMAの少女たちの歌と踊りを鑑賞した後、メデューサ一行を歓迎する宴は、だんだんと盛り上り、今や、宴会場となっている、村の集会所の広間の中は、ペガサス族の娘たちの、明るい笑い声や、食事をしながらお喋りをするざわめきで、満ち溢れていました。

しかし、主賓であるメデューサは、無言でやけ食いをするように、ニンジン料理を食べており、隣に座るシュナンは、そんなメデューサの姿を、気遣う様に見ていました。

するとその時、シュナンが膝に乗せている、師匠の杖が声を発しました。

彼は、シュナンたちの隣で、宴会場の上座に座るペガサス族の若き長、レダに、話しかけます。


「そういえば、さっき、緑色の巨人族と争っていたようだが、何か訳があるのかね」


赤髪のポニーテールの少女レダは、ちょっと眉をひそめながら、答えます。


「あいつらー。ボンゴ族は、元々、山を越えた近くの海沿いに住んでいた、巨人族の末裔なの。山を隔てて住み分けをしていた頃は、わたし達とも、仲良くしてたんだけどね・・・」


レダは、赤いポニーテールを揺らしながら、深いため息を吐いて、話し続けます。


「でも、海獣クラーケンが、この辺りの海に現れてから、事情が変わったの」


「クラーケンだって!?」


師匠の杖を膝に乗せたシュナンが、驚きの声を、上げました。

クラーケンは、海神ポセイドンの眷属の一体で、色々な海の生物を寄せ集めた様な、奇怪な外見を持つ、巨大な海獣でした。

この時代、クラーケンは、世界中の海に出没し、海辺の村や町を、荒らし回っていました。

その伝説の怪物が、この近くの海に、現れたというのです。

クラーケンの恐ろしさを、かねてより耳にしていたシュナンは、思わず、膝上の師匠の杖を、ギュッと握りしめます。

隣でやけ食いをしていたメデューサも、気になったのか、レダの話に耳を傾けます。

レダは、二人の顔を順番に見つめると、更に深刻な顔で言いました。


「クラーケンが、彼らが住みかとしていた村の、近くの海に現れてから、漁業とかで生計を立てていたボンゴ族の暮らしは、成り立たなくなってしまったの。彼らは主に、その海から取れる海産物に依存して、生活していたから。クラーケンを恐れて、魚はいなくなり、海の中に入る事さえ、命懸けになってしまった。それでー」


レダの言葉を引き取る様に、シュナンが膝上で握る師匠の杖が、言いました。


「それで、ボンゴ族の連中が、君たちの住む村の近くの海岸に、現れる様になったんだね。生きる為の糧を、得る為に」


レダは、頷きました。


「気の毒だと、思わなくもないけれど、わたし達だって、海から取れる真珠や珊瑚を取り引きして、生計を立てているの。彼らに、大切な海を荒らされるのは、困るわ」


その時、輪になって宴会を楽しんでいる、ウマ娘の一人が、レダ達の会話を聞き付け、大声で言いました。


「そうです!!あの連中のせいで、大切な海が汚されるのは、我慢なりません!魚もいっぱい捕まえて、食べちゃうし。お魚さんは友達なのにっ!」


他の宴会に参加している少女たちからも、口々に怒りの言葉が、発せられます。


「そーよ、そーよ!!」


「大体、あいつら、身体の色が緑で、気持ち悪いのよっ!!」


「腰巻一つで、ほとんど裸だしっ!!下品だわっ!!」


「死んじゃえっ!!」


和気あいあいだった宴会場には、たちまちボンゴ族に対する、非難と憎悪の声が飛び交い、殺伐とした雰囲気に包まれてしまいます。

だけど、族長であるレダは、そんな仲間たちの怒りの声に耳を傾けながらも、腕を組み、押し黙っていました。

そして、部外者であるメデューサとシュナンは、宴会場が喧騒とした状態になった事に戸惑って、チラチラと、怒りに震える少女たちの様子を見ていました。

やがて、シュナンが膝に置いた師匠の杖が、言いました。


「やっかいな、状況だな。一種の生存競争というわけだ。どうする?シュナン」


シュナンは、膝に置いた師匠の杖の発する、その問いに、目隠しで覆われた顔を、うつ向かせながら応えます。


「一宿一飯の恩も、あります。やはり、このままにはしておけないでしょう」


そして、側に座っているレダに向かって、声をかけました。


「僕たちが力になるよ。ボンゴ族が、君たちの海を、荒らさない様にすればいいんだろう」


そのシュナンの、意外な提案を聞いたレダは、驚きと戸惑いを隠せない声で言いました。


「そう言ってもらえるのは、嬉しいわ・・・でも一体どうすれば・・・色々考えたけど、一つの場所で二つの種族が共存するのは、なかなか難しいのよ」


レダの族長としての悩みは、深い様でした。

シュナンは、レダの言葉に頷きながらも、説得する様な口調で言います。


「僕に考えがある。君も協力してくれ、メデューサ。君とは縁のある、種族の為だしね」


シュナンの隣で焼きニンジンを齧りながら、彼とレダのやり取りを、黙って聞いていたメデューサは、フンッと鼻を鳴らして、そっぼを向きます。


「あんた、本当にお人好しね。「黄金の種」を探すんじゃないの?ろくでなしの、人間どものために」


シュナンは、目隠しで覆われた顔を少し俯かせて、メデューサに答えます。


「確かに、そうだけど。自分に親切にしてくれた人達が、困っているのは、やはり放っては置けない。このままでは、だんだんと争いは激しくなって、その内、怪我人や死者さえ出るかもしれない。そんな事になったら、君だって、きっと後悔するよ。メデューサ」


メデューサは、しばらく押し黙り、考え込んでいました。

しかしやがて、深い溜息をついて、言いました。


「わかったわ、シュナン。わたしは、あなたの旅に付き合うと決めたのだから、あなたに従うわ。好きにすれば良い」


その言葉を聞くとシュナンは、ニコリと微笑み、メデューサにお礼を言いました。


「ありがとう、メドューサ。やっぱり君は、優しい女の子だね」


「ふんっ」


メデューサは蛇の前髪の下から、覗く顔を少し赤くして、顔を背けます。

そして、ペガサス族の族長レダは、シュナン達の言葉を聞いて、嬉しそうに胸元で両手を組んで、感謝の言葉を発します。


「ありがとうございます!!シュナン、メデューサ様!!」


そして、感極まったレダは、隣に座るシュナンの、杖を持っていない方の手を、両手でギュッと握りしめて、更にお礼を言いました。


「ありがとう、本当にありがとう!!」


余程、困っていたのでしょう。

レダは涙を流さんばかりに喜び、シュナンの手を握りながら、その目隠しで覆われた横顔を、潤んだ瞳で見つめます。


「ちょっ・・・あんた」


その姿を見て、血相を変える、メデューサ。

蛇の髪の隙間から覗く、彼女の顔が、思わず怒りで引きつります。

しかし、彼女の抗議する声は、周囲のペガサス族の少女たちの発する歓声に、かき消されます。


「ありがとうございます!!シュナン様っ!!」


「都一の魔法使いの、シュナン君がいれば、百人力です!!」


「ボンゴ族なんか、やっつけちゃえっ!!」


どうやら、ペガサス族の少女たちは、魔法使いのシュナンが、自分たちの力になると言ってくれた事に、すっかり、感激している様でした。

そして、族長のレダは、シュナンの手を握りしめたまま、彼に密着し、うっとりと、その横顔を見つめています。

しかし、喜びに沸き立つ、宴会場の雰囲気とは裏腹に、メデューサは、怒った様に肩をいからせ、蛇の前髪の隙間から、シュナンにくっつくレダを、睨みつけていました。

一方、レダに密着されているシュナンは、真っ赤になって、その目隠しをした顔を伏せています。

やがて、彼の膝に置かれた師匠の杖が、呆れたように、言葉を発しました。


「やれやれ、どうなる事やら」


[続く]

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ