ペガサスの少女 その2
さて、海沿いの道を歩いていた、メデューサとシュナンでしたが、やがて彼らの歩く道の真ん中に、一頭の白い馬の様な、大きな生き物が、うずくまっているのに気づきました。
その生き物には、大きな翼があり、よく見ると、どうやら脚に、ケガをしているみたいでした。
「天馬だ」
シュナンの持つ、師匠の杖が、言いました。
「どうやら、怪我をしているようです。近づいてみましょう」
シュナンはそう言うと、師匠の杖を持ちながら、横たわるペガサスに、近付こうとします。
メデューサも戸惑いながら、彼の後に続き、ペガサスの側に近付きます。
そんな彼女に、師匠の杖が注意しました。
「メデューサ、顔を隠せ。魔眼が発動する」
慌てて前髪の蛇を動かして、顔の上半分を隠す、メデューサ。
ペガサスは、シュナン達が側に来るのを察知すると、地面にうずくまったまま、ヒヒンッと、警戒するような唸り声を上げました。
しかし、シュナンがゆっくりと手を振り、優しい声をかけると、何故か、おとなしくなりました。
そしてシュナンは、おとなしくなったペガサスの傍らに、師匠の杖を掲げてひざまずき、杖を通して彼女?のケガの様子を調べます。
どうやらペガサスは、足を挫き、動けなくなっているようです。
シュナンは、ケガをしたペガサスの脚の上に手をかざすと、何やら呪文を唱え始めました。
回復魔術で、ペガサスの脚を、治すつもりなのです。
シュナンの手のひらが、ボゥッと光り、発せられた光が怪我をしたペガサスの脚に当たると、徐々にその傷は癒されていきます。
シュナンの傍らに立つメデューサは、そんな彼の治療する様子を、蛇の前髪の下から、じっと見守っていました。
やがて治療が終わり、シュナンはフゥッと息をつくと、ペガサスの脚にかざした手を引っ込めました。
「もう、大丈夫だ」
シュナンの言葉と共に、ペガサスは脚の痛みが無くなったのか、不思議そうにその眼を見開きながら、スクッと地面から四つ脚で、力強く立ち上がりました。
そして感謝の印なのか、その長い首を伸ばして、シュナンの目隠しをした顔を、ペロリと舐めました。
くすぐったそうに身をよじる、シュナン。
ペガサスは嬉しそうにヒヒンと鳴くと、やがてその大きな白い翼を広げます。
元気になったペガサスは、シュナン達の目の前で蹄を鳴らして、軽くステップを踏むと、巨大な翼のひと羽ばたきで、天高く舞い上がりました。
上空を飛ぶペガサスは、見上げるシュナン達の真上を、2、3回円を描いて旋回した後で、海とは反対側にある森林地帯の方角へ、飛び去って行きました。
さて、ペガサスを見送った後、再び歩き出したメデューサ一行でしたが、しばらく歩くと、再び奇妙な光景に遭遇しました。
海沿いの浜辺で、二つの集団が、にらみ合いをしていたのです。
双方とも、それぞれ数十人ぐらいの人数で、一方は、緑色の体色の大きな身体を持つ、角の生えた巨人族の集団で、もう一方は、なんとビキニのような黒い布地で胸と腰を隠した、若い女の子の集団でした。
女の子たちは、ビキニの他には、防具の様な黒い肩パッドを両肩に装着し、脚にはロングブーツを履いており、首や手首に、宝石の付いた装身具を、身に付けている者もいました。
巨人族と女の子たちの集団は、浜辺で真っ二つに分かれて向かい合っており、双方とも木の棒や木劍を持って睨み合い、今にも激しい争いが始まりそうな雰囲気でした。
「この醜い化け物ども!あたしたちの縄張りに、入って来ないでっ!」
「そーよ!そーよ!」
女の子達が黄色い声で、巨人の群れに向かって、叫びます。
しかし、緑色の巨人族たちも、言われっぱなしではありません。
「ふざけるでねぇっ!!この辺りの土地が、おまえらの物だなんて、一体、誰が決めただっ!?俺らにも、この海岸を使う権利はあるはずだっ!!」
「このウマ娘どもがっ!目にもの見せてやるだ!!」
浜辺で向かい合って、互いに罵声の応酬を繰り返す、二つのグループ。
やがてそれは、相手の欠点をあげつらう、悪口合戦へとエスカレートしていきます。
女の子たちは、巨人族の、一枚布をスカートみたいに腰に巻いただけの、裸同然のその姿を、激しく非難します。
「大体、腰巻き一つで、恥ずかしくないのっ!?」
「そーよっ!!猥褻物陳列罪だわっ!たまに腰巻きの下から、変なの見えるしっ!!」
「この原始人っ!!」
巨人族も負けじと、女の子たちの、煽情的なビキニ姿の事を指摘し、怒鳴り返します。
「人の事が、言えるかっ!!」
「えろい格好しやがって!身体の線が、丸見えでねえかっ!!」
「この淫乱ウマ娘どもがっ!!」
やがて双方の緊張状態が頂点に達すると、ついに二つの勢力は、正面から激突し、素手や武器で争い始めました。
シュナンとメデューサが離れた場所で見守る中、巨人族と少女たちの二つのグループは、それぞれの武器を使ってポカポカと殴り合い、互いに傷つけ合います。
両者の戦いは激しく続きましたが、身体が大きい緑色の巨人たちのグループの方が、やや優勢みたいでした。
スピードでは少女たちの方が、はるかに上回っていましたが、いったん取っ組み合いになると、巨人のその大きな体格に、圧倒されてしまうのです。
巨人と組み合い、首を絞められ、気絶しそうな少女も何人かいました。
その時です。
少女たちのグループが、奇妙な動きを始めました。
なんと少女たちが、一斉に、その革製のビキニの様な衣服を、脱ぎ始めたのです。
彼女たちは、両肩に付けた黒いパッドも、脚に履くロングブーツも脱ぎ去り、更には、身に付けたアクセサリーまで身体から取り外し、全裸になろうとしていました。
「シュナン!見ちゃ駄目っ!!」
思わず、師匠の杖の眼の部分を、手で覆い隠し、隣に立つシュナンの目を、見えなくする、メデューサ。
シュナンは元々は目が見えず、その手に持つ師匠の杖を通して、周囲の状況を把握しているのです。
ですから、身体から杖が離れたり、杖の先端の目のレリーフを塞がれると、途端に、元の盲目の状態に戻ってしまうのでした。
「こりゃ!メデューサ何をする!?せっかくの、眼福なのに」
「メデューサ!何も見えないよっ!」
「うるさいっ!いいから見るなっ!!」
師匠の杖とシュナンが、それぞれ抗議の声を上げます。
二人と一本?が揉めあっている間に、浜辺では、とうとう少女たちの全員が服を脱ぎ捨てて、全裸になりました。
そしてその時、彼女たちの身体に、不思議な変化が起こったのです。
一糸まとわぬ女の子たちの裸身が光り輝き、大きく膨れあがったかと思うと、なんと一瞬後には、そこに大きな翼を持つ、白い天馬の群れが、出現したのです。
メデューサの手から逃れた師匠の杖が、大きな声を発します。
「天馬族だ!」
そう、彼女たちこそ、かつてメデューサの祖先が、魔法科学の枠を集めて造り上げた眷属。
天馬に変身することが出来る、美少女戦士集団、ペガサス族の末裔だったのでした。
[続く]