1
馬車は行く。辺境へ向けて。
ドナドナドナドナと。
現代で馬車に乗る機会などそう多くはあるまい。それも日本という国の高校生なら尚のこと。
ならば、なぜシンヤ・アカバネがそんな希有たる体験をしているのか?
…察しの通り、ここは異世界である。
現代日本からクラスごと転移という名の集団的誘拐をされたのだ。
ちなみに現在は4個入り一袋のピーマンや、一房4本のバナナの如く出荷もとい、魔王討伐の訓練のためとクラス36名…4人1組が9つがほど全員別々の方角へと送られた。碌な説明もなしに、鍛えろとだけ告げられて…。
シンヤがそんな気分になるのは、同行者3名にあった。御者が座るところにいたシンヤは荷馬車の後ろへと視線を送る。
優しそうに見えるとても高校生とは思えない年齢詐称疑惑のある、黒髪泣きぼくろのおっとり美人ツクヨ・アマガケ。
元天才子役にして、現在は国民的アイドルな、可愛らしい見た目の美少女ハル・アオイ。
そして、あまりにも普通な女の子ホノカ・ミカゲ。
これだけ聴けば、ハーレムでラッキーじゃないか!なんて、喜びが芸術並みの爆発を求めるかもしれないが、そんなことはありえない。
彼女たちには裏があった。
…彼女たちはいわゆる裏アカバレである。
そうボッチなシンヤは押し付けられたのだ。
―
シンヤたちは、学園の教室より広い空間にいた。そこにはまるで生贄の儀式でもしたかのような魔法陣があり、それがなんと彼らの足元にあったのだ。
それは一種の異国的荘厳空間とでもいいのか、現代日本には中々ない空間であり、一瞬、どこぞの宗教団体がサバトでもした、それともするのかと思ったが、その喜びを向けられた空気感からか、ほのかに緊張感が解けた雰囲気がそこにはあり、シンヤのそんな想像を否定する。
そして、ボッチであるシンヤの数少ない友人が主体となり、色々と尋ねた結果、ここが異世界であると発覚した。
それなりの混乱は生まれたものの、やはり現代っ子はそこのところ順応性が高いのか、それとも余計なことをしてこの見知らぬ場所で放り出されることを打算的に拒否したのか、一部を除きそれを受け入れ、呼び出した者たちの指示に従うことにした。
「それでは皆さん、こちらに並んでステータスを確認してください。」
彼らの様子はかなり手慣れており、それもクラス全員が転移という事実が、シンヤに疑念を抱かせた。
…これって明らかにおかしいよな…。
「出よ!俺のステータス!!……っ!?よっしゃーーっ!!」
「…あっ…マジか…。」
「…これって生産職じゃ…。」
…普通なら、優秀な奴だけ集めればいいのに…なんで…。
「…やっぱりきな臭いな…これ…。」
とりあえずどうにかして【ステータス】を見ておきたい。いいステータスにしても悪いステータスにしても目立つと面倒そうだし。
ということで…【ステータス…鑑定】?
そう念じ、目を閉じたシンヤ。すると、頭の中にいわゆるステータス画面というのが浮かんできて…。
ステータス
シンヤ・アカバネ 職業 真なる勇者
………。
閉じろ。と、即座にそれを閉じさせ、目を開ける。
…うん、なんか変なの見ちゃったな〜。
とりあえず見ないフリ見ないフリ。
うんうん!だってこれ絶対これ以上見ちゃダメなやつだもんね♪あはは♪あはは♪あはは♪アハハ……。
「……はぁ…。」
シンヤは速攻で【隠蔽】ないかな?と探し、それを採用。
中の中程度のステータスに設定し、ステータス確認のため呼ばれたので、それが正しく表示されたの見て頷く。
そうして、全員のそれが終わり…と、ここまでは平穏だった(ことにした)。
そして、シンヤに転機が訪れたのだ。
「は〜い!それじゃあ、4人一組になってくださ〜い!これからはその4人にパーティーを組んで貰いま〜す。」
…………え?