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聖女様は逃げ出した!?

作者: 景山 斐雲





多くの人が勘違いしている。

大人しい子とは、『=内面も穏やか』と言うわけじゃない。


もちろんそういうタイプも居るだろうが、

同時に、内面の苛烈さを外に表現するのが苦手なだけというタイプもいるのだ。



「アミリ様、大丈夫ですか…?」


「ええ」



気遣わしげな護衛の言葉に、頷いたのは二十歳になったばかりの黒髪黒目の平凡だが優しげでバブみのある容姿の女性、旧姓・田中あみりであり、結婚した今は、アミリ・レイディアンである。

四年前に異世界から世界を救うために聖女として召喚された彼女は、

二年前にめでたく瘴気を浄化し、世界を救い、召喚した当初からずっと支えてくれていた王子様と結婚した。

二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ。


まあ、これが物語なら、それでハッピーエンドで終わるのだが、残念ながらここは現実であり、人の心は移ろうのだ。



(いや、今思えば、最初っからアタシを好きだったかも怪しいわ)



本の数メートル先で、こちらに気付きもせずにイチャコラしているのは、聖女様と結婚したはずの王子様。

いや、もう王位を継いでるので王様だ。


聖女の目の前でイチャコラしてるんだから、当然相手は聖女であるアミリではない。



「──の政策についてだが」


「それでしたら──」


「ああ、なるほど!流石、ターニャだ。

君の視点にはいつも驚かされる!」


「まあ!褒めすぎですわ」



なにやら小難しい話で盛り上がって、顔を見合せてふにゃっと幸せそうに微笑み合う姿にイラッとする。



(へぇへぇ、そんな難しい話も分からん小娘で悪ぅごさんした!)



こちとら四年前まで普通の女子高生だったんのだ。

内政チート?

女子高生の知識力に何を求めてる?

使い方は知ってても作り方なんて知るわけないでしょうよ。

料理だってお母さん任せで、調理実習以外で作ったことないレベルなのにさ!


そう、くさくさした気持ちを抑えて、自分の惨めな立場を鼻で笑いそうになるのを耐えて、騎士達を気遣いつつ、にこやかに部屋へと戻るためにアミリは踵を返した。



(なぁ〜んか、全部バカバカしくなって来ちゃった)



本当は図書室に向かう予定だった。

政治の知識がなくて、王である夫を支えられない自分が悪いのかな?と思ったから、少しでも知識をつけたら、また昔みたいに愛を独占出来るんじゃと思ったから…。



(でも、よく考えたら付け焼き刃で才女として名の知れた人に太刀打ち出来るわけないよね)



あっちは、領地を統治するために幼い頃から政治経済について叩き込まれる身分な上に、その中でも優秀と言われてる上澄み。

苦手教科以外は基本的に平均点は、まあ越えれますよ?レベルで、馬鹿ではないけど特出して良いわけでもなかった人間が齧った程度の知識で太刀打ち出来る相手ではないのだ。

相手にするだけ馬鹿を見るのはこっちだ。



(あ〜あ、ばっからしい〜)



世界を救った聖女という特典をなくせば、

方や、平々凡々な容姿で、

方や、白銀の髪の氷のように美しい美女。

方や、サラリーマン家庭出身の一般人で、

方や、由緒正しき伯爵家のご令嬢。

方や、元の世界で親の臑齧りだった政治経済マナーetcの知識皆無な女で、

方や、早くに両親を亡くして年の離れた弟を養育しながら領地を切り盛りした女傑。



(好み逆ですや〜ん)



内気で優柔不断、常にヘラヘラしながら自分の意見を濁すタイプと、

自分で考えて行動出来る、凛としハキハキと話すタイプ。

容姿を見ても、性格を見ても、かするどころか真逆のタイプを連れてきた夫には、心底ガッカリした。



(アタシは、聖女の肩書きがあったから娶っただけと。

そういうことか?あ゛?)



イライラし過ぎて微笑みが深くなる。

漫画なら負のオーラで微笑んでても怒りのオーラが分かっただろうが、現実にそんなチートはないので、ただ慈悲深い笑みにしか見えない。



「ああ、聖女様はなんとお優しい!」


「あのお二人を祝福して差し上げるなんて!」


「法で認められていても嫉妬に駆られた王妃様も歴代にはおられたというのに!」



法で認められてるとか知らね〜!!浮気は極刑だし、嫉妬しないのは愛が冷めるどころか好感度が地の底に落ちたからで〜す。

という本音を隠して微笑む。

あの浮気旦那の行動を肯定してる時点でコイツらは敵なのだ。

弱みを見せるべきじゃない。



(いーや、違うか。

この世界の誰にも見せるべきじゃないの間違いだわ)



聖女として呼ばれたアミリは、〝聖女らしからぬ〟とこの世界の人達が思う行動をとると否定させるのだ。

それは、やんわりとした窘めだったり、陰口だったり様々だったが、この世界でアミリは聖女としてしか存在を認められなかった。


そして、それを怒るにも、異世界から来たアミリの衣食住は、そういうアミリに聖女を求める者達に依存しており、

聖女らしくしないとは、=死と言っても過言ではなく、生かされる対価として聖女らしくあることを強要され続けていたのだ。


そんなアミリにとって唯一弱音を吐ける存在が元王子様、現王様だったわけだが…。



(マッチポンプか??)



自分達で弱らせて、王子と結婚させて国が聖女を手に入れるという作戦な気すらして来た。



(なんつーか、最近ホントイライラが止まらん)



そう、ほんの一週間前までアミリは聖女として、王妃として、未熟ながらもなんとか精一杯こなしていた。

突然異世界に召喚され、帰る方法はないと言われ、瘴気の浄化のために魔物と戦って負傷した騎士達が寝かされてる救護テントでグロい傷口達とも戦った。

ホームシックになったり、聖女の仕事に二の足を踏むと「聖女らしくない」と窘められたり、陰口を言われたり、最悪「偽物なんじゃ?」と言い出されるので、アイツらの都合のいい聖女様を演じ続けながら、なんとか瘴気の素を浄化出来たのが二年前で、

これからどうしよう…と思ってたところにプロポーズされたから頷いた。

好きだったのだ。

いや、そりゃそうなるわな。

マッチポンプか天然か知らんけど、唯一自分の弱さを否定しないでいてくれた人を好きにならんヤツ居る??

そんな半洗脳と吊り橋効果な気もせんでもないけど、まあ好きだったから頷いた。

悪役令嬢モノのざまぁされる転生乙女ゲーヒロイン並にめっちゃ軽い気持ちだったのがダメだったのかもしれない。

聖女の肩書きに王太妃の肩書きついてきて、出来なきゃいけないことがクッソ増えた。

増えたから唯一愚痴れる夫に対して言う愚痴が増えた。



(だからダメだったのかなー)



半年くらいすると夫が「忙しい」と会う時間が減った。

王位継承が決まってバタバタし始めてたから疑いはなかった。

でも、悪循環は確実にここから始まったと思う。


ツライ王妃教育。

誰にも愚痴れない環境。

唯一愚痴れるのは夫だけ。

その夫も忙しくて滅多に会えないから、会うとどうしても愚痴っぽく弱音ばかり吐いてたと思う。



(だからって浮気はダメだけどな?

浮気する前に話し合おうよ。

そして、浮気する前に離婚しよう)



ことの始まりは、ほんの一週間前だった。

夫と召喚されたばかりの頃から世話になっていた宰相が、綺麗なお姉さんを連れて現れたのだ。

そう、浮気相手だ。



「すまない。本気で愛する人が出来た」


「聖女様、申し訳ございません!!」



申し訳なさそうに眉を下げて弱った顔でふざけたことをのたまったクソ男と一緒に頭を下げたクソアマに、「はあ?」と汚物を見る目でも向けれれば良かったのだけれど、悲しいかな、優柔不断もとい、拘りがなく、好悪が少ないせいで咄嗟に感情を表現しそびれ、



「まあ」



と目を見開いておっとりと言うことしか出来なかった。

そんな反応に、許されたと思ったのか、浮気夫と人の男に手を出す女は、ホッと息を吐いていた。


何も許してないからな??

と言えたら良かったんだけど、普段どれでもいいから自己主張しない口は動きなれてないせいで重く、素早く持ち主の感情に反応して動いてはくれたりはしなかった。



「ああ、受け入れて下さって良かった」



安心したようににこやかに宰相が言うが、何も受け入れてないからな??とは、やはりすぐに口が動かなかったので、宰相が話し出す方が早かった。


まあ、内容を要約すると、

1、この国は王は側妃を持つことが法的に許されてるのでこれは合法。

ほら、結婚二年目なのに子供いないですし。

いや、結婚半年から一年半ほぼレス、一年前から全くナシで子供なんざ出来るわけないだろ??

2、王妃様にはこれからも王妃になった聖女として表舞台に立ってもらうけど、貴賓の相手とかは側妃様がするから安心して下さい。

ええ、確かに高貴な産まれの貴賓の相手に四苦八苦してましたが、それは遠回しの戦力外通告ですか??

一応、アタシなりに頑張ってたんですけど??

そういうの一番傷付くわ〜。

3、側妃様との子供が生まれたら祝福してくださいね。

子供には罪はないけど、聖女の祝福はしたくないかな〜!!

4、王妃の生活は保証するので安心してください。

夫が浮気た時点でアタシの生活は崩壊したので信頼ゼロです!!

そういやうやむやにされてて意識出来てなかったけど、コイツら誘拐犯だったわ〜。

安心出来ないので離婚させて欲しい〜!!


とりあえず、この国で合法だろうと、一夫一妻の国で育った私は納得出来んし、離婚させて欲しいんだが????

という思ったけど、口から出たのは、



「なるほど」



の一言だけだった。


それが悪かったのかもしれないけど、なんでみんなアタシが認めたみたいな雰囲気で話してるのか心底意味わからん。



(なんかもうダルいわぁ…)



わりと頑張ったと思う。

みんなの求める聖女様像や王妃様像に近付こくと、衣食住を盾に取られてたからわりと本気で頑張ってたと思う。

テスト勉強だってこんな頑張ったことないし。


不快な気持ちを持ち続けている状態が不愉快だった。

アミリは、本質的に逃げの人間なのだ。


確かに周りに求められるがまま聖女になったアミリは気弱で大人しい性格なのは事実だ。

基本的にインドアで友達も少ないタイプで、クラスの隅にいるような三軍タイプ。

だが、アミリの父親の家系は、千年より昔から存在しているド田舎の集落みたいな場所で、同じ名字が分家していくせいでそこら中同じ名字で溢れてるのが普通の環境で、何故か近所に二百年前に分家した一家族しかおらず、その上、何故か長男ではなく、代々家を出そびれた末息子が家を継ぐという珍事件を起こし、祖父の代で兄達は揃いも揃って県外に出て、父の代で兄達は国外に出るという思いっきりの良さを持っている血筋なのだ。

ついでに母も国をあちこちしたらしい。

そんなフッ軽な血でよくインドアだなと思うかもしれないが、住処を移す思いっきりの良さと、住処からよく出るのは別の話なのだ。


さて、突然何故こんな話をしたか?



(なんかもう全部どうでもいいや)



さっきも言ったが、アミリは逃げの人間なのだ。



(迷惑料に宝石でも持ってく?いや、窃盗になるかな?)



不快を感じた時、声を上げて、不快をなくすため現状を変える努力をすることはない。



(う〜ん、ドレスばっか)



その上、大人しく沸点が高いので勘違いされるが気は短い。



(あっ!乗馬の時の服ある〜!これにしよ!)



じわじわとした不快感は、途中から感覚が麻痺してくるのでわりと耐えたりもするが、



(浮気夫と一緒にいるとか無理無理〜)



今回のような「浮気」という、アミリの倫理観的にアウトな急激なストレスを感じると、即座に逃げに走るのだ。


逃げ切る経路?

ここに来たばかりの頃から、ストレス発散にしょっちゅう考えてた。


どうやって生活するか?

生活能力を与えないために隠されてたから無謀なのは知ってるけど、元一般人だし、バイト経験あるし、なんとかなるでしょ!


まあ、死んだ時は死んだ時さ!



「よし、行くか」



ストレス過多で心が平穏じゃないくらいなら死んだ方が気楽だし!


そう一週間で割り切って、割り切った瞬間に行動に移すフッ軽さは、正しく血だった。



「あばよ、王宮!」



四年間拠点にした王宮に思い出はあるが、元々写真は撮らないし見返さないタイプのアミリにとって、思い出は大事にとっとくものではなく、区切り区切りで、今までありがとうございました!さようなら!と切り捨てるものなのだ。

卒業??泣けたことないよね。

いつだって新しい未来にワクワクしてたくらいさ!



「ふんふふ〜ん♪」



大人しくて従順な聖女が逃げ出すなんて思っていない王宮を四年温め続けた目を付けていたルートから鼻歌交じりで逃げ出すアミリには、悲壮感も必死さも不安もない。

ただ、なんとかなるっしょという軽い気持ちで脱走したのだった。










───────────









「そんな…」



翌朝、聖女の不在、もとい脱走を聞いた宰相は頭を抱えた。



「追跡魔法の付与された装飾品が全部置かれていくなど…!!」



王様は、聖女に許されたことに安堵していが、宰相は、立場上一応警戒していた。

あの大人しい方に限ってないては思うが、問題が起こらないように彼女の持つ全ての装飾品に追跡魔法をかけていたのだ。

仮に逃げるなら、換金できる宝石を持っていくのが定石だからだ。

なのに蓋を開ければ、「宝石持ってくのは窃盗だよね!」と全部置いてったのだ。



「あの方、どうやって生きていく気なんですか…!?」



野垂れ死ぬ前に保護せねば!!

奴隷商に騙されたり捕まったりして売られる可能性もある!と大慌てで周囲へと指示を出す。












その頃、


「いや〜、案外なんとかなるもんだね」


王宮から逃げ出し数ヶ月が経ったアミリは、奴隷商に捕まることもなく、野垂れ死ぬこともなく、案外上手くやっていた。


「坊主!ボケっとすんな!」

「は〜い!」


古着屋で乗馬服を売り、古着を3セット買い、その古着の1つを着て、もうひとつはホームレスの男に着せ、最後の1つを別の古着屋で交換させ、その交換させた男物の服を着て、自分でまた別の古着屋で交換する。

ついでに女性は髪が長いのが普通の世界で、ベリーショートに切って男物の服を着れば、少年のフリは完璧。


王宮は聖女の失踪を隠蔽してるし、秘密裏に探していても、性別という人探しの時に一番最初に確認するところが違うと案外深く見られないのでバレないのだ。


(うん、快適!)


大人しいくせにフッ軽で適応能力EXの、異世界にすら順応したアミリにとって、同じ世界で新しい環境に馴染むなどあまりにも簡単なことだった。

そして、



「アミリよ、どこに居るんだ…!」

「まさか…、もう亡くなられてるなんてことは…!」

「縁起でもないことを仰られるな!」


過去として切り捨てた王宮がどれだけ右往左往しようとも、アミリが王宮へと思いを馳せることは一瞬たりともなかった。


「大変そうだなー(他人事)」




ノリと勢いで一日で書いたので雑いのはご愛嬌\(^o^)/

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