09.「がくせい」授与式
誕生パーティーから数日後、授与式とやらのために王宮に出向くことになった。
物凄くパリッとした、貴族然とした服装、油で整えられた髪、普段は履かない綺麗な靴。
王宮に向かう馬車の隣にはリリィ先生、向かいに父であるスワン子爵が座っている。
「ところで、この授与式って、何を授与されるんですか?」
「いや、私も詳細は知らされていない。むしろリリィ先生の方が詳しいだろう」
「で、リリィ先生、どうなんですか?」
「それは、着いてからのお楽しみ♪」
はぐらかされてしまった、誕生パーティーでのマッチポンプ行為、まだ完全に許した訳じゃないからなリリィ先生…
いや、リリィ先生が補佐で入ってくれないとマジで困るから、そんなに責め立てたりはしないけど、そんなには。
そんなことを話したり、授与式について無駄に考えているうちに、王宮に着いた。
しばらく…と言うには長い時間待たされてから、謁見の間に呼ばれる。
威厳を持った国王陛下が、重々しく言葉を発する。
「そなたが、トイレを開発したというセドリックとやらか」
「はっ、セドリック・スワンと申します、国王陛下においてはご機嫌うるわしゅう」
「よいよい、おおよその話と成果については、学力認定員リリィ・マルセーネから聞き及んでおる。こたびの報償として、セドリックに学聖の位を与え、今後はセドリック・トイレ学聖を名乗るが良い」
まさかのトイレ子爵令息から、トイレ学生かよ…マジですか、もう泣きたい。けど国王陛下に無礼は働けない。
「は、ありがたき幸せ!」
「セドリック・トイレ学聖は、言語に若干の不自由を抱えていると聞く。そこに配慮し、リリィ・マルセーネを学力認定員の任を解き、学聖の専属補佐に任命する」
「はい、承りました」
あ、リリィ先生が補佐に入るのはマジの決定事項だったんだ。良かった…のか?本当に?いや、リリィ先生がいないと論文も書けないからこれでいいんだ、そう信じないとやっていられない。
「セドリック・トイレ学聖は、アカデミーに入り、その知性を存分に国のために振るって欲しい」
「ご期待に添えるよう、尽力いたします」
「では、下がってよし」
しかし、学生にするだけなのに、なんで国王陛下がわざわざ学生任命なんてするんだ?
リリィ先生は賞賛の笑みを浮かべ、父スワン子爵も「学聖の位を賜るとは、我が家の誇りだ」などと言っているが、アカデミーの学生はそれほど高い地位だったか?
余談だが、学聖とは『一代限りの伯爵位相当』であり、セドリックとしては途方もない出世なのだが、本人だけは知るよしもない。