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05.屋敷の悪臭を解決しよう:後編

 執事が、依頼した通り八名の作業員を集めてくれたので、概要を説明する。

 ちなみに屋敷の改修については、父子爵の管轄なのでこちらにはいない。


「私が作りたいのは排便設備だ、と言っても構造はそれほど複雑ではない。一階と二階それぞれに小部屋がある小屋を作る。その小屋は極端な話、人が跨がれる程度の穴さえあればいい。ただ予算が大幅超過しないのであれば、このような座面を作って設置してほしい」


 図に書いたのは洋式便所的な座面だ、ただ穴から落とす形式なので当然タンクもなければ蓋も不要なので、ただの穴があるだけの便器座面だ。


「いや、この程度の座面なら追加予算も不要ですよ。ですが坊ちゃん、この設備は何のために作るので?」

「とりあえずは『次男坊のお遊び』と笑いながら作ってくれれば良いよ、一応は便の悪臭対策を目指しているんだけどね」

「悪臭対策、確かにお貴族様ならではの発想ですな。こちらとしては対価を頂ければ、仕事を断る理由もありはしません。承りましょう」

「ありがとう、対価については執事に任せてあるから、そちらから受け取ってほしい」

「「「これから三ヶ月、よろしくお願いします!」」」


 そんな時、猫便所(仮称)を清掃していた使用人が、少し涙目になりながらこちらを見ていた。


「どうしたの?何でも言ってごらん?」

「いえ、この排泄設備ができたら、確かに私の負担は減りますが…その結果、解雇されるのではないかと不安なのです。そうなったら私なんかを雇ってくれる場所はあるのかと…」


 なるほど、確かに猫便所(仮称)清掃は過酷な仕事だ、だけど需要があるから彼女は雇われている。

 彼女の待遇は決して良くないこともわかっているが、だからといって見捨てるつもりは毛頭ない。


「いや、排泄設備が上手く回り始めたら、もっと大変な作業が待っているんだ。それはとても根気が要り、とても大切な作業になるはずだ。設備が回らなければ今まで通り、回れば必ずそちらに転属させてあげるから、心配しないで」

「ありがとう…ございます…セドリック様」


 ぽろぽろと涙を流す猫便所(仮称)清掃員。うん、肥だめを作るには人手が絶対必要だ…最悪自分の予算から給料出してでもどうにかしよう。


 そして三ヶ月後、屋敷と連結された排泄施設、すなわちトイレが完成した。

 そして…しまった!トイレの下に穴を掘る指示を忘れてた!


「完成までありがとう、深く感謝する。そして今から有志に緊急の仕事依頼を発したい!上の穴から排泄物を受け止める穴を、十分な広さでおよそ二十メートルの深さで掘ってほしい!山分けで金貨四枚でどうだ!」


 セドリックは、とにかく何とかしなければと焦りながら、思わず相場よりも遥かに高い金額を口にする。困惑する作業員達の中から声が上がる。


「いやいや坊ちゃん、排便設備って聞いてるんですから、十分な穴は設計段階から用意してますよ…それにしても山分け金貨四枚ってどれだけ焦ってるんですか…」

「おいおい、いきなりバラす奴があるかよ!せっかくの山分け金貨四枚が、フイになっちまったじゃねーか」

「おまえ、坊ちゃんからぼったくる気だったのか?そんな事したら、今後子爵家から仕事貰えなくなるだろうが、馬鹿野郎が!」

「ちげぇねぇ、ま、そういう訳できっちり俺たちの対価銀貨十五枚の中に、穴掘りも含まれてるんで安心してくだせぇ」


 思わず金貨四枚という大金を差し出そうとした事に赤面するが、皆はほっこりと見ている。それが余計にやるせない。

 ところで銀貨十五枚…?銀貨十枚で金貨一枚換算だから、執事の言っていた金額の四分の三だ。どういうことだと執事を睨み付ける。


「いえ、最悪を想定した予算で計上いたしました故。いつもの子爵家が優遇している所が依頼を受けてくださり、安くあがりましたな坊ちゃん」

「ということは、もしかして職人達の見積もりも?」

「ええ、こちらは屋敷の構造に精通した職人を無事雇えたため、金貨二枚で済みましたな。合計で金貨三枚と銀貨五枚の支出です、よかったですな坊ちゃん!ほっほっほ」


 思いっきり騙された気がするけど、こちらの支出が大幅減なのだから文句を言う筋合いではない!

 そんなこと、わかっているが悔しい、さすがは執事と言うべきか…


 こうして、とりあえずトイレが完成し、まずは家族や使用人達に積極的に使って貰うように声を掛ける。

 父である子爵の鶴の一声で、全員がトイレを積極的に使うようになったが…あれ、もしかして便器が足りなかった…?結構危うい混雑状況だ。

 時を置かず、作業員達を呼び戻して訴える。


「すまない!やはり緊急依頼だ、出入りは屋外で構わないから、一階に使用人向けの排泄設備をもう一つ作ってくれ!」


 どうやら、資材の余りや便器の試作品を流用したようで、一か月後には屋外にトイレが完成した。

 ちなみに対価は銀貨八枚…一人当たり銀貨一枚で済んだ、うん、よかった。


 排泄施設は…そのまま『トイレ』という名前でいいだろう。

 あとは、猫便所(仮称)清掃員を、肥料づくりの要員に配置換えして貰えるよう、父にお願いするだけだ。

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