14.衛生環境の改善論文
二回の代理数学教師は大成功だったようだ、ほとんどの数学教師は俺の教え方を、多かれ少なかれ吸収して教えているようだ。
ごく少数の数学教師は頑なに、数学大全に基づいた従来通りの教え方をしているようだが、学生達の気持ちは離れているらしい。
そりゃそうだ、教育では「分からない事を分かるようにする」のが大切なのであって、権威を振りかざす事じゃない。
「で、学聖さん。臨時教師の役割が終わった今、何を考えているのでしょう?」
リリィ先生が意地悪く言ってくる。
「そうだな…やっぱ学聖の発端となった、衛生に関する内容が受けるんじゃないかな」
「どうだろうね、トイレが評価されたのって衛生というより、悪臭対策だったから実感しやすかったんじゃないの?」
「だからって、地道な衛生対策を放置していい理由にはならない。学聖という地位を得た今だからこそ、そういう事ができるはず」
「あっそ、じゃあ頑張ってね」
「いや、俺は文章書けないんだから、当然リリィ先生にもご協力お願いしますよ」
「ええ~」
リリィ先生は頬を膨らませながらも、特に対価を求めるつもりもないらしい…一応地位的には俺の補佐官だしな。
「まぁ、今回も別に難しいことじゃないよ、生活排水…たとえば洗濯した水を綺麗にして川に流そうって話だから」
「すごい地味そう…それ、本当に効果あるの?」
「正直、どれほど効果があるかはわからないな…ただ川の上流で捨てられた洗濯水を、下流の人がそのまま使う事はなくなるから無意味じゃないと思う」
「ま、頑張ってね」
「だから、リリィ先生が論文書くんですって!」
どこかやる気のないリリィ先生を叩き起こしたけど、正直俺の発想なんて大したことじゃないんだよな。
底に細かい砂、そこから小さい石、少しずつ大きな石を積んでいくだけの単純な濾過装置だから…
まずは、簡単な図を描いて、リリィ先生に見せる。
「で、この図に何を書き加えればいいの?正直この図だけで、構造は全て説明されてるよね?」
「う…上の石で大きな汚れを止めて、下の小さな石に行くとその大きさの汚れを止めて…」
「この図だと、それぞれの層で『汚れを止める』って書くだけだね」
「ごめん、リリィ先生…その『汚れを止める』が俺には書けないんだよ…」
「はいはい、わかったわかった…一つだけ書くから、あとはセドリックが書くこと!」
「ありがとうございます、リリィ先生!」
リリィ先生の記した『汚れを止める』と同じ綴りを、それぞれの層に記す。
「で、末尾には『これで水が綺麗になります』でいいの?」
「内容としてはいいんですけど…え、論文ってそんなんでいいんですか?」
「うん、私が書いたトイレ論文も目的、設計図と簡単な説明、得られた結果で通ったし」
「そういえば、その肝心のトイレ論文、本人である俺は見たことないんですが!」
「もう提出して受理されてるから、図書館に行けば読めるわよ」
「なんで自分発案の論文を読みに、わざわざ図書館に行くんだ…なんかおかしい」
まあ、何だかんだ自分では言葉を書けないので、論文執筆は基本リリィ先生に丸投げだな。