和菓子屋の猫
今日もまた、スタンプカードの中に新しい猫が増える。
おつかいで和菓子屋さんに行くのだが、その店のスタンプカードに押される猫がかわいいのだ。ウインクしていたり、不機嫌だったり、と表情豊かな猫が揃っている。
本当ならあと一回で全部埋まる……はずだった。自宅から車で10分かかる店に自転車で行き、頼まれた和菓子の詰め合わせやどら焼きなどをまとめて購入して溜めたスタンプ。
それなのに、私がいないからといって母は自分で店に行き、最後のスタンプを貰ってしまった。しかも1000円分の割引をしてもらってそのまま店で処分してきた……。怒りよりも悲しみが勝って頬には涙が伝っていた。
申し訳ないと思ったのか、母は今、和菓子屋へスタンプカードの回収ができるかどうかの確認に行っている。
「ごめんね。無理だった」
帰ってきた母はマンションの階段を急いだのか息を切らしている。
不要なスタンプカードは全て破り捨てるというルールになっているらしい。
「別の人のならもらえるって言われたけど……多分、嫌だと思ったから断ったの」
「もう……いいよ。気にしてない」
別に怒るほどの事ではないのだ。スタンプだってまた溜めれば良い。それがわかっているのに、どうしても譲れない自分がいた。それが何より腹立たしかった。自分の小ささが醜かった。母だって悪気があったわけではない。だから私はこのことはもう忘れようと思った。趣味という趣味がなかった私が興味を持ってしまったのがいけない。
「最後の猫……どんな顔なんだろう」
階段を上る足が止まり、口から漏れ出た。
駄目だ駄目だ、と私は顔を振る。
休日、私はまた和菓子屋に来て頼まれた商品をかごに入れ、レジの列に並ぶ。あまり来たくなかったけれど、どうしてもと母に懇願されてしまっては断れない。自分の番になり、会計時にカードを手渡す。女性の店員さんは私の顔をチラッと一度見てまた視線を下に向ける。
「いつも買っていってくれてありがとうね。はい、これおまけ」
そう言って手渡されたスタンプカードには全ての判子が押されていた。
「どうして?」
「それは君が受け取るはずだった報酬だよ。もっと喜んだら?」
「ありがとうございます」
とその場では言った。複雑な気持ちだった。こんな感じで受け取ってしまって良かったのだろうか。
それでも、私の頬は緩んでいた。素直に嬉しかったのだ
20匹目の猫は私を祝福するように笑っていた。