2話
川村村 2話
ペタ……ペタ……ペタ… 濡れた裸足でコンクリート道路を歩く音が、だんだんと近づいてくる。
裸の男が着々と近づいてくる証拠を、耳と目で嫌になるほど確認させられるが、体は相変わらず動かない。
男は先週まで約300メートル先にいたはずだが、今では約50メートル先までに近づいて来ていた。
この近さまで来たのであればどんなに顔をしているのか確認できるはずだが、謎のモヤがかかっており、見えない。
どんなにもがこうが体はびくともせず、徐々に苦しさが増していく。
余りの息苦しさと恐怖から、みっともない悲鳴を上げた瞬間、夢はさめ、涙でガビガビになった目を見開きながら飛び起きていた。
はぁ‥…はぁ‥…と、荒く乱れた息を整えながらベッドの横の棚に置いてあるデジタル時計を確認する。「や、ヤバい!遅刻だ!」今日は、先日川村Uと約束していた(半ば強引に)別荘に行く予定があったのだ。だが、いつもよりうなされていたせいか、セットしていたアラームに気づかず寝過ごしてしまった。
「やばい、Uを怒らせちゃう‥…」ひどい焦りから、独り言を呟きながら、大急ぎで出かける準備を進め、家をでる。
走りながら、(待ち合わせはたしか‥…トラストの赤いベンチだったよな)とUとの待ち合わせ場所を確認する。しばらく全力で走っていると、青いペンキで雑に塗られた屋根が視界に入った。いつもなら15分ほどで着くのだが、急いだ甲斐があり5分ほどでついてしまった。(よし、何とかギリギリ間に合った‥…)心の底から安堵し、赤いベンチに座っていた川村Uに「やあ、U、まった?」と声をかけながら走り寄る。川村Uは、走って来る俺の存在に気がつき、軽く手振ってきた。かと思えば、今度は川村Uの方から走って来て、俺の耳元まで近付いてきて、こう呟いた。「俊輔…ギリギリだったな…あと2分37,125秒で遅刻だったからな…な、な?父さんを怒らせたくなかったらもう少し気を付けてくれよな…?」俺は足の裏から脳の隅々まで鳥肌が立つのを感じた。