後編
それから5分ほどあとに戻ったがかずきさんはいなくなっていた。
「かずきさんは先ほど、帰られましたよ。"いつでも二人を迎えられるようにしておく"とだけ伝言を貰いました。どうしたいかは二人で決めてくださいね」
改めて聞いてみることにした。
「せいなはどうしたい？」
「なおくんが一緒ならどこにでも」
俺の目を見てあつこさんが
「そうですか。かずきさんに連絡しておきますね」
一週間ほど経って再びかずきさんが施設に来た。
「嬉しいよ。僕の所に来てくれることを選んでくれて」
「かずきさんはいい人そうですから、安心です。せいな、そろそろ出よう」
「あつこさん、今までありがとう」と目を潤ませながら言っていた。
「ここを離れてもいつでも遊びに来ていいですからね」と俺に視線を向けて言ってきた。
これはバレてるなと思いながら、
「ありがとうございます」と二人で答えた。
車で30分くらいの場所で、山の上だった。周りに民家など、人の気配は感じた。
「ここが君たちがこれから君たちと生活する家だよ」車の中で広いと自慢するだけのことはあるなと思った。
でかいなぁと思って見ていると「喜んでくれて嬉しいよ。すぐにとは言わないけど、自分たちの家だと思って自由に過ごしてくれると嬉しいよ」
せいなの目にはまだ不安が宿っていた。そうだろうと思う。
どれだけ俺がいるといっても昔体験したトラウマは、そう簡単に消えてくれない。
だから、俺は「せいな、大丈夫だから」とすこし強めに抱きしめた。
そんな様子を恨めしそうにしている気配を感じた。
俺はせいなを抱きしめながら、はやるに心を抑えた。
しばらくは平和に過ごしていた。2週間ほどたった日の夜に起こってしまった。
その日の夜、突然の尿意に目が覚めた俺はトイレに行っていた。
トイレから部屋に戻ろうとした時、かずきの書斎から大きな音が聞こえてきた。
「あの糞餓鬼、ずっとせいなの近くに居る。折角、あいつらの両親を殺したのに！！！！！」
その言葉を聞いた途端、頭が真っ白になった。
せいながあれだけ長い間苦しんだのは、全部此奴が。
部屋に入ろうとしたが、ドアに鍵がかかっていた。
イラついた俺はドアを蹴破った。
「おい、テメー。どういうことだ。」
「あれ？聞かれちゃったか。それにしても、ドアを蹴破るなんてすごい力だね」
と笑いながら言ってきた。
我慢の限界がきて、ボコボコに殴った。
殴りすぎて、手がかなり痛くなった。そこで少し冷静になれた。
ゴフッと血を吐きながら奴は言ってはいけないことを口にした。
「あーあ。せいなくんを君の前で犯して二人の絶望する表情が見たかったなぁ」
とニヤニヤしながら言いやがった。その後のことは記憶にない。
気づいた時にはせいなが後ろから抱きつきながら
「大丈夫だよ。私何もされてないから！！」と言っていた。
後ろからの衝撃とせいなの声で我にかえった。
目の前には首に手の後がくっきりついているかずきがいた。
念のため調べてみたが、脈がなかった。
殺すと決めていたとはいえ、ここまで衝動的になるとは思えなかった。
体の感覚は戻ってないのに、どんどん思考だけがクリアになっていく。
とりあえずは、せいなを守れた安心感があった。
"折角、あいつらの両親を殺したのに"の言葉が頭の中で反芻される。
どうして俺たちの両親らはどうしてあんなやつに殺させなきゃダメだったのか。
そう考えると涙が止まらなかった。
せいなが俺が泣いているのを気づいて俺を無理矢理正面に向かせて頬を引っぱたいた。
「え…せいな…」
「なおくん、私、無事だよ」
「ごめんよ。せいな、ちょっと冷静じゃなかった。」
「いいよ、私のためにありがとう」と抱きしめてくれた。
そのときになってやっとせいなの声と体温を感じることができ、やっと終わったんだと実感できた。
二人で泣き疲れて起きた時には、次の日の昼になっていた。
どうするか考えたが、あつこさんに連絡することにした。
連絡してすぐに来てくれた。
あつこさんをあいつの書斎に案内した。
「やっぱりこうなったか」
「やっぱり？」
「なんとなくね。ま、殺ってしまったものは、しょうがない。警察には？」
「連絡してない」
「なら、どうにでもできるね」
「どうにかできるんですか？」
「任せな。今回を最後の仕事にするけどね」と言って処理をし始めた。
あとで詳しく聞くと、親が子供を虐待している家庭があるとわざわざ親を殺して、子供たちを施設で預かっていたというエピソードを披露してくれた。
処理が終わって三人で施設に戻ってきていた。
外でボーっと空を眺めていると、せいなが隣に腰かけてきた。
そのまま二人でしばらく空を見上げていた。
俺は両親やせいなの両親にこれまでの経緯を報告していた。
せいなは何を思って空を見上げているのだろう。
そんなことを考えているとせいなから声をかけてきた。
「なおくん、私と結婚したい？」
答えはずっと昔から決まっている。それでも言葉にするのに少し時間がかかった。
意を決して「結婚してくれ」と言ってキスをした抱きしめた。
「うん♪これからもよろしくね！」と言って抱きしめ返してくれた。
結婚のこと報告しようというせいなの提案してきた。
誰にと思った。そんな疑問が表情に出ていたのだろう。
あつこさんだよと答えてくれた。
二人で手を繋いであつこさんの部屋を訪れて、結婚することを伝えた。
「そうかい。よかったよ。これからどうするんだい？」
そう。そこが問題なのだ。俺はまだ就職先を決めていなかった。
返事に困っていると
「ここで働きながら、暮らすのはどうだい？」と提案された。
少しその生活について妄想してみた。楽しそうだなと思った。
せいなの方を見ると幸せそうに微笑んでくれた。
同じ気持ちを共有できていると思った。
だから、せいなと二人で合わせて頷いて一緒に答えた。
「「お願いします！！！」」
ここで終了です！
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