中編
施設に戻り、与えらえれた部屋にいた。
これから、どうするか悩んでいた。勿論、復讐したい。
でも捕まったら、向こうに逝ったときに両親に顔向けできないとも思った。
さっきの刑事さんに相談して法的に裁くこともできるかもしれない。
このまま両親のことを忘れて呑気に過ごしていくのか。という思考がグルグルとまわっていた。
そんなときノックと共にせいなが入ってきた。
暗い表情をしていて、せいなの両親が亡くなった時と同じくらいいや、
もしかしたらそのときよりひどい表情していた。
いつものように心配する言葉が咄嗟に出てきた。
「せいなは大丈夫か?」
と尋ねると泣きそうな声で抱きついてきた。
「なんでそんなに強がるの?!こんな時くらい私を頼ってよ…私、なおくんのこと…」
と続きは聞き取れなかったが、目から涙が零れてきた。
「朝も思ったけど、せいなは強くなったんだな。」
「うん。今までなおくんがそばで励ましてくれたんだもん。これからは二人なんだから甘えてよ」
抱きつき返して、今までにないくらい泣いた。多分一生分泣いたように感じた。
泣き疲れたのか、いつの間にか眠っていた。
この夜はに懐かしい夢を見た。
自分の境遇と重なったのかせいなの両親が亡くなった日だった。
その日からしばらくの間、せいなは塞ぎこんでいてとても心配した。
その光景が小さいながらに思うことがあったのかこれから守りたいと思うようになっていた。
元気になってもなおくんと言って後ろをついてきていたように思う。
昔は後ろをついて来てくれるのがかわいいと思ったし、
そう思い始めてから好きになったんだと思う。
当時のせいなは一緒に遊びたいだけだと思っていた。
今になって思う。
それだけが理由じゃないと。
身近な両親が死んで周りから仲の良い人たちがいなくなるのが怖いのもあり、
いなくならないか心配だったから後ろをついてきたのだと今ならそう思う。
今の俺もせいなが隣から離れられると正気を保てなくなると思う。
それより、待てよ。せいな、俺が泣き始める前になんて言っていた?
『こんな時くらい私を頼ってよ…私、なおくんのこと…』
と言っていた。都合のいい解釈かもしれない。それでもせいなもおれのことが…好きなのか?と妄想してしまう。どうしよう、もう告白するべきだとわかっている。
そんな中隣で天使の寝顔を俺に向けながら、寝言で「これからは私も大好きななおくんを守るからね」と呟いていた。
俺はその瞬間に顔が真っ赤になってその場を離れた。今のままだと別の意味で正気を保てなくなる。
せいなを起こさないようにゆっくり部屋を出た。
起きた時間がちょうどよかったのか、外にでると朝日が出ていた。
ゆっくり寝て冴えた頭でいろいろ考えた。
両親を殺した相手のこと、せいなとこれからどうしたいのか。
まだ頭の中はこんがらがっているが何とかなるような気がしている。
差し当たっては今から部屋に戻ってせいなに告白をしよう。
ということで部屋に戻ってきた。せいながまだ寝ていてくれてよかった。
正直まだ心の準備はできてない。でも、伝えたい。
せいなはいつ起きるのだろう。そんなことばかり考えていてそわそわしだした。
そろそろ起きる時間だろう。
それがわかっているのに、告白するという人生初めての経験に緊張してうまく思考を働かせることができなくなっていた。
そのイカれた思考回路は告白の予行練習を真横で初めてしまった。
10分ほど経ってせいなが「恥ずかしい!!やめてよ!!」と言って飛び起きたのだ。
「え?いつから?聞いてた??」と顔を真っ赤にしながら聞いた。
「5分くらい前から…」と真っ赤にしながら、答えてくれた。
ここまでくれば、伝えるしかないと思った俺は、
「せいな、好きだ。これからもずっとに一緒にいてくれ」
「なんで今なの?」と聞いてくる表情はとても不満気だった。
正直に答えるか一瞬迷った。ここでもまた見栄をはりカッコつけるのか。
だが、すぐに決まった。
「前からずっと好きだった。けど、父さんと母さんが死んでせいなも俺から離れて欲しくないと改めて思った。」
と自分の気持ちを包み隠さず伝えることにした。
何故かその選択をしたのか。両親が死んでからせいなは本音で話すことを望んでいると思ったからだ。
その答えを聞いたせいなは満足そうに微笑んで顔を隠すように抱きついてきた。
「うん。私も大好きだよ。これからはちゃんと思ったことを話してね。」
「なら、あともう少しこうしててもいいか?」
「他にはない?」
「大丈夫。せいなのこと抱きしめてるから存在を感じれて安心する。」
「このまえのデートの時からわかりやすくなったけど、思ってたより重いんだね」
と笑ってくれた。
告白してから1年ほど経った。あれから俺たちの関係に変化はほとんどない。
まあ、それはそうだろう。付き合う前から一緒に暮らしていたのだ。
だからと言って全く変化がなかったわけではない。体の関係をもつことができた。
もう一つ上げるなら、俺がキチンと本音を話すようになったことがあげられるだろう。
こんな風に施設でお世話になりながらも、せいなとは仲良くできているから幸せだ。
でも今、一つ悩みというか困っていることがある。
それは告白してから一週間ほどした日にせいなから聞かれた『復讐するの?』と。
しばらく答えれずにいると、『一年は待つからね。でもそれ以上は待てない』と言われた。
わかったと返事をした。
なんで一年なのか、それは今年で18になり、将来的に進路をはっきりさせないといけないからだろう。
正直、まだ悩んでいる。俺の将来設計的にはせいなとふたりならどこにでも暮らしていける自信がある。
それでも、せいなははっきり自分の意志で決めてほしいのだろう。
しばらく考え込んでいるとあつこさんから「なおきくん、そろそろ里親になりたい方が来られますよ」と声をかけられた。
そうだった。この人の人柄で決めようと思った。
俺の中ではもう両親が死んだのは"昔の出来事"として風化していくのかと思うと寂しくもあり、時の流れを感じる。
部屋でせいなと二人で5分ほど待っているとノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼します。初めまして、私はかずきと申します。」
と人の良さそうな笑顔をしている。この人なら大丈夫かなと思っていたが、それは違うみたいだ。
隣のせいながひどく怯えていた。
詳しく聞きたかったが、せいなを落ち着かせる必要を感じた。
「あつこさん、かずきさん、せいなの体調がわるいみたいなので一旦失礼させてもらいますね。」
と言って二人の部屋に移動した。
落ち着くのを待ってから
「せいな、教えてくれるかい?」
手を握って安心させるように聞いた。
「あの人、昔会ったことがある人なんだけど…」
と詳しく教えてくれた。
簡潔に纏めるとせいなの母さんのストーカーらしい。
せいなの母さんのことを手に入れられないと分かると次はせいなを標的にしたらしい。
それを聞いた瞬間、頭に血が昇った。出ていこうとすると、せいなが手をつかんで
「私はもう大丈夫だから」
と言った。だけど、俺はせいなの手が震えているのを見逃さなかった。
「一つだけ聞いてもいい?」
「うん、どうしたの?」
「せいなは俺がどんなものを選んでもずっと味方でいてくれる?」
「それは当たり前だよ、なおくんもずっと私の味方でしょ?」
「これから何がどうなろうと」
「せいな、俺はこれからどうしたいか決めたよ」
せいなは目に涙をためていて少し頬が赤らんでいて俺が何を言おうとしているのかわかっているみたいだった。
「俺はかずきを殺すよ」