我輩は苺のケーキが大好きである
我輩は苺のケーキが大好きである。
苺のケーキこそ奇跡のスイーツであると言えよう。
苺と生クリームとスポンジが奏でるハーモニーは天使の調べである。世にケーキの種類が無数にあれど、あれに勝る組み合わせなど無い。
我輩は1月生まれであるが、誕生日に苺のケーキを食べ、この時期に産まれたことを感謝し噛み締めるのである。
8月生まれではこうはいかない。何故ならば8月にケーキの上に乗っている苺は殆どが小さく酸っぱいからである。
洋菓子店によっては夏場は苺のケーキを出さないところもある。寧ろその潔さに「ここは苺のケーキを出す店として信頼できる」とすら感じるのだ。
ああ、嗚呼、苺のケーキよ。
その赤と白の強いコントラストを持つ麗しい姿よ。
生クリームはあたかもレフ板の役割を担うかのように、みずみずしい苺の表面に白い光を送りこむ。あの柔らかい赤い肌を尚一層つややかに輝かせるのだ。
顔を近づければ苺特有のさわやかな甘い芳香を生クリームのまろやかな香りが優しく包んだマリアージュが我輩の鼻腔を擽る。その時我輩の脳はまさに蜜月の如く甘く蕩ける。
生クリームと苺とを最初に出逢わせた御仁はなんと偉大でなんと罪深い御方であろうか。
フォークでその一辺を切り取り、美しい地層を眺めながら口に運ぶと甘さと爽やかさと薫りとクリームの濃厚さと柔らかい食感とがいちどきに押し寄せてくる。
だがその勢いは強くともけして不快にはならず、我輩を幸福の毛布に包みそのままフカフカとした寝床へ誘うようなものだ。我輩は暫し夢現の幸福に浸るのである。
幾度食べても飽きることはない。我輩は苺のケーキが大好きなのだ。
なお、我輩が今までの人生で一番美味と感じたケーキは夜の蝶のお姉様方御用達、銀座の某パティスリーが作り上げた食べる芸術品。
オレンジの薫るチョコレートケーキだ。あれは悪魔の囁きである。
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