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講堂の扉を開けると既に生徒は全員集まっており前方のひな壇に向けて人垣が割れ花道が出来ていた。
壇上にはクライヴ王子以下5人。
制服姿の全校生徒の中、夜会の如きドレス姿の公爵家令嬢とお付きが護衛騎士を先頭にゆるりと練り歩く。
全員が意表を突かれ、一瞬音を失くすがすぐにヤジが飛びはじめる。
人垣の花道から令嬢を嘲るように転ばせるための足が突き出された。
これには流石に対処に困った。
歩みを止めるか?ダメだ。弱気を見せてはいけない。
無視出来るか?いや、その前に護衛騎士が斬り飛ばしてしまうだろう。
それは今じゃない…
と、無礼者の隣の男が嗜めてくれた。
「淑女になにをする気だ!公爵家に対して不敬だろ!その汚い足を引っ込めろ!」
この狂乱の場にマトモな人が一人でもいたことに勇気をもらった。
「クロエ。」
「心得ております。」
クロエはずば抜けた記憶力の持ち主である。
今もヤジを飛ばしている人々の名前と言動を後で纏めて書き留めてくれるだろう。
足を出した無礼者も隣の紳士についても。
なにも言われずとも最前列の人垣を抜けたひな壇前に立つ。
「おやおや、我が婚約者様はずいぶんと時間にルーズなことだ。定刻をとうに過ぎているが?」
「殿下の従者に教えていただいたとおりの時刻に参りましたが?」
会場が静まり返る。
(そりゃそうだろ王子サマ、さっきみんなに説明したとおりじゃないか)
という全員の心の声が聞こえたのかクライヴ王子がちょっと狼狽える。
「う、うるさい!口答えするな!貴様に申し渡すことがある!!
ウォッホン!アー、アー、
私、クライヴ・ランチェスターは、ジャクリーン・オルコットとの婚約を今この時をもって破棄することを宣言する!!」
「承りました!私、ジャクリーン・オルコットは、クライヴ・ランチェスターからの婚約破棄を受け入れます!!!」
間髪を容れずの大音声の受け入れ宣言に意表を突かれて動揺の色を隠せない壇上の5人。
(え、王妃になりたいんじゃないの???)
見守る生徒一同も呆けているうちに公爵家令嬢は護衛騎士の1人に王宮への早馬を指示していた。