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この国のただ1人の王子クライヴは講堂の壇上で取り巻きのひとり、宰相グッドフェロー伯爵の嫡男であるコンラッドが、ある1人を除きこの会場に集まった生徒たちにこれから始める余興の主旨を説明しているのを満面の笑みで眺めていた。
卒業式ではあるのだが王家からの重大発表ということで急なことではあるが学園には了承してもらった。
壇上にはクライヴ王子、コンラッドの他にパウエル騎士団長の嫡男チェスター、ギボンズ宮廷魔術師長の嫡男バーナード、そして聖女候補フローラの5人。
フローラを除く4人は卒業生でありフローラは在校生の1年生、来月には新2年生であった。
そして壇下にはその他の全校生徒。
壇上の5人を含め全員学園の制服姿である。
教師はこの余興が終わるまでは来ないことになっている。
大人はこんなことに関わらないほうがいいことくらいは分かっているのだ。
とはいえ、壇上と壇下の端に王子付き近衛が控えているのはお役目上仕方のないことであった。
コンラッド・グッドフェローがメガネを中指でクッと押さえて締め括る。
「だから、皆には見届けてほしい。我々の正義がこの国に巣食う氷の悪魔を撃ち破る様を。以上だ。」
戸惑ったような会場の雰囲気を有無を言わさず盛り上げるようにチェスター・パウエルが筋肉を無駄に見せつけつつ手を叩きながら大音声で声をかける。
「素晴らしい!コンラッド、素晴らしい演説だったぞ!力を合わせてやってやろうじゃないか!なあ?」
バーナード・ギボンズが前髪に隠れて見えない目を煌めかせたような雰囲気を出しつつ調子を合わせる。
「そうだな…我々で、やってやろう」
紅一点のフローラが無邪気に王子の腕を取りつつ感謝を述べる。
「みんな、ありがとう!」
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この国には珍しい黒髪黒目で神秘的な巫女のようなスレンダー美人のフローラは平民であったが希少な治癒魔法を発現させたために教会の聖女候補となった。
その教会の後援により去年特例として貴族学園に入学したのだった。
清廉で神秘的な雰囲気を纏っているにも関わらず天真爛漫で明るい性格の彼女は男子生徒に絶大な人気があった。
しかし女子生徒の目には同じ無邪気な行動が逆に馴れ馴れしさと映り、学園でただ1人の平民ということもあって蛇蝎の如く嫌われていたのだった。
そんな彼女の苦境をクライヴ王子とその取り巻きが放っておくことは出来なかった…というような言い訳をしつつこの一年近くイチャコラしていたわけだ。