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壇上の晒し者どもが疲れて果て声を枯らすのを見計らい、公爵家令嬢は王宮からの書状の内容を報告する。
「さて、皆さまにはこの場をお借りしてご報告がございます。
先程のクライヴ王子からの婚約破棄に伴い、クライヴ王子の王位継承権が剥奪されました。
それにより、私の兄であるバイロン・オルコットの順位が繰り上がりまして王位継承権第1位となり明日の立太子式に臨む運びとなりました。」
爆弾再び。いや核爆弾である。
「ど、ど、ど、どういうことだ?!」
クライヴ王子の悲鳴混じりの疑問は一同全員を代弁したものであったろう。
「これはこの場ではクライヴ王子にしか分からない話ですが、図書室の一件により追記された婚約契約書の条項が発行したためです。
―王子の一方的な理由による婚約破棄または王子の過失が原因の婚約破棄に際して王子の王位継承権は剥奪されるものとする―
王家と公爵家との取り決めにより婚約破棄は当人同士で了承を得ればよいことになっています。
ですので婚約破棄宣言以降、クライヴ王子の王位継承権はなく、その後の私に対する断罪は繰り上がりました王位継承権第2位に対する誣告。
つまり国家反逆罪にあたる行為となります。
王子は幽閉でしょうか、他の方々は処刑ですね。
ご一門に累が及ぶかどうかは兄が判断するでしょう。
すでに事態は動いています。近衛、連れていきなさい!」
「待ってください!私は平民で国家反逆なんて大それたことは…」
「フローラさんは教会との話し合いになると思います。
異端審問官が来ることになるようです。処刑の方がまだ…」
「まだ…ってなんですか?!まだって!え、ちょっとイヤだ、離して!クライヴ!なんとかしてよ!このマヌケ王子!」
マヌケ五人衆が近衛に連れ去られた後の空っぽの壇上に皆が呆けていたが、公爵家令嬢が改めて問う。
「さて皆さま、私がこの場に来た時のことを覚えておいででしょうか?」
幾人かがハッとした顔をした。
「公爵家への侮辱の言葉を耳にしました。
今後のこの国の体制を考えると簡単に済ますべきではないと考えます。
誰が何を言ったのか、やったのか全て分かっております。
学園内のお遊びに見えたかもしれませんが、これは政争です。
ほら、次期王の首がすげかわったでしょう?ね?
私は今日の日のために半年をかけて準備してきました。
敵味方を選り分けるために全てを記録させていたのですよ。
覚悟なき者が関わるべきことではなかった。
うっかり旗色を鮮明にしてしまった者は勝敗に無関係とはまいりません。
貴族として生きていく限りは常に用心が必要なのです。
ご帰宅後、お早めにご当主さまとご相談ください。
家門から自主的な申し開きがない場合は公爵家の敵として扱わせていただきます。
卒業生には学園最後の日に貴重な経験が得られたことと思います。
在校生には教訓を卒業生である私から。
では、卒業式を始めましょうか。」
氷の姫君は誰もが見惚れる満面の笑みを浮かべていた。