シャングリラはそこに 2
「タルゴーヴィ大公さまにも、宰相閣下にも、ご心配をおかけしてしまって、私こそ反省しないといけませんね。……やはり、このまま神宮で生涯シーシアさまにお仕えしたほうがよいような気がいたします。」
しおらしくそう言ったら、ジランくんはちょっと首を傾げた。
「いや……。大公さまも、伯父上も、フィズさまは神宮で納まるおかたではないと思ってらっしゃるようです。私も、まだ2回しかお会いしてませんが、あの静謐な神宮にはフィズさまはふさわしくないと思いました。」
「……そうかもしれませんね。」
渋々認めた。
自分でも、そう思う。
以前のように、神宮修士として忙しく働いていたときはそんな風に思わなかったけれど……今回、お客様として神宮にいることは……かなり退屈だ。
せめて目新しい書物とかあればいいんだけど、神宮にはとんと入って来ない。
だからこうやって図書館に来たかったんだけどさ。
「まあ……びっくりしたけど、ヘイー先生にも、ブンザくんにも、久しぶりに会えてよかったわ。ありがとう。ジランくん。さて、午後からも、書物に埋もれますか。」
帰り着いた図書館の入口でジランくんにそう言った。
ジランくん的にはまだ何か言いたそうだったけれど、この話はこれで終わり!と、足早に建物へと逃げ込んだ。
***
閉館時間の間際に、宰相ティガがお迎えに来てくださった。
私は10冊もの書物を貸し出ししてもらうことができた。
「有意義な時間を過ごせたようですね。」
宰相は笑顔でそうおっしゃって、当たり前のように私の借りてきた書物を持ってくださった。
同じく10冊の書物を積み上げたジランくんが、宰相に空腹を訴えた。
「伯父上。お腹がすきました。フィズさまも、昼から何も食べてらっしゃいません。……空腹のまま、神宮にお帰しになりませんよね?」
確かに、もうとっくに神宮の質素な夕食は終わってるだろう。
そう思ったら、確かに空腹を実感した。
宰相は、私のお顔をみてから口を開いた。
「よろしければ、我が家で夕食を召し上がって行かれませんか?」
……そのつもりで最初から準備してらっしゃったのだろうか……。
多少のためらいも生じたが、ジランくんのキラキラした金色の瞳と目が合うと……とても拒否できる雰囲気ではなかった。
「……ご迷惑でなければ……ご馳走になります。」
ジランくんのお顔が、ぱっと華やいだ。
***
馬車で移動すること10分。
宰相の「我が家」は、川沿いの一等地の、かなり大きなお屋敷だった。




