噂のエル・ドラド 16
「個人的にも、こき使ってらっしゃいますものね。」
言葉を濁した宰相に、珍しく厳しくシーシアさまがおっしゃった。
宰相は、シーシアさまを無視して、続けた。
「師には産業の分野で大臣に就任していただく予定で、国策のお手伝いをしていただいています。近々、これまでの業績と今後の展望を中心に勉強会を開く予定です。……フィズどののご希望とは少し違うかもしれませんが、よろしければそちらにご参加なさいませんか?」
……大臣就任予定の、宰相の師匠の、勉強会?
何だか、ものすごく……光栄なお招きなんじゃないだろうか……。
ドキドキしてきた。
「ありがとうございます。とても実際的なお勉強の場ですね。是非、よろしくお願いします。」
笑顔でそう答えたら、宰相は柔らかく微笑んだ。
「ええ。とても実務的です。机上の空論で終わるわけにはいかない、実行力と政治的判断も必要な勉強会なのですよ。……もしお気に召しましたら、フィズどのにも参画していただけたらと思っています。」
……は?
参画って……え?
もしかして、ただ、勉強会を見学させてもらうだけじゃないの?
驚いたけれど、身体中に血がみなぎるように感じた。
タルゴーヴィ公国の大公子に嫁いでから、ずっと願ってきた……国のため、社会のために何かをしたいという強い想いが、再び鎌首をもたげた。
頬が紅潮し、喜びに震えた。
「ありがとうございます。まずはお勉強させてください。……その勉強会の日までに、せめて基礎的な産業に関する知識を身につけたいのですが、何か参考になる書物はございますか?」
そう尋ねたら、宰相の表情がゆるんだ。
「真面目なかたですね。……そうですねえ……追々学べばいいと思いますが……せっかくですので、いくつかの資料を届けさせましょう。」
「ありがとうございます。……それから、カピトーリの中央図書館に参りたいのですが……。」
さすがに、護衛をつけてくれとは言い出しにくい。
言葉に詰まっていると、ジランくんが言った。
「私も、入学前に図書館に行きたいと思っていました。伯父上、明日か明後日、フィズさまをお誘いして、図書館に行ってもよろしいですか?」
驚いたけれど、渡りに船だ。
私は思わず手を組んで、宰相の返答を待っていた。
宰相は、苦笑した。
「……ジランの腕は確かですが……フィズどのの護衛を任せるわけにはいかないなぁ。……では、行き帰りは、私が同行いたしましょう。……明後日でよろしいですか?」
「ありがとうございます!」
私は何度も頷いた。
ジランくんもニコニコしていた。
……シーシアさまだけは……お人形のように固まってらっしゃった……。
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