ユートピアからの放逐 8
そんな生意気なこと、口に出してはとても言えない。
だから、何も言わず、何も告げず、黙々と勉強した。
無言の抵抗だった。
「インペラータが全土統一してしまったから、他国の貴族に嫁ぐこともできなくなりましたでしょう?……といっても、私の上の姉のウーノの娘のトミル、覚えてるかしら?トミルのように、異国の貴族に嫁いだ、ただそれだけのために、惨殺されてしまっては、たまりませんけどねえ。……だからと言って、そこらの平民や役人ではねえ……。」
ズキンと、胸が痛んだ。
……忘れていたくても忘れられない、悲しい事実。
オピリアの貴族のお家に嫁ぎ、息子や娘を何人も産み育てていたトミルお姉ちゃんは、インペラータのオピリア征討時に、他の貴族ともども殺され……インペラータ兵達の食糧となってしまったそうだ。
カピトーリの実家で、お葬式をすることも許されず、……遺骨も遺髪ももらえず、埋葬すらできなかった。
インペラータの支配が全土に及んだことで、これからはそんな悲しいことにはならないといいのだけれど……いずれにしても、女の運命は嫁いだ相手次第というのが一般的だ。
「それで、あの……どのようなかたからのお話ですか?」
長くなりそうなので、直球で聞いてみた。
継母の目がキラキラと輝いた。
「ですから、ようやく、フィズの知性を望んでくださるかたがいらしたのよ!すばらしいことだわ。フィズ、これまで、よくがんばりましたね。私、うれしくてうれしくて……」
言葉に詰まったと思ったら、継母は涙ぐんだ。
これは……想定外に大変な縁談かもしれない。
少し緊張してきた。
感激している継母に対し、父がため息をついたことが、ちょっと気になった。
どうやら父は、継母ほどには喜んでいないらしい。
「知性……ですか……。」
よくわからないので、継母に先を促そうとした。
継母はハンカチで涙を拭いて、晴れやかな笑顔を見せた。
「大丈夫。フィズなら、安心して送り出せるわ。……驚かないでね。お相手は、タルゴーヴィ大公のご子息よ。」
「は?」
大公……。
大公って、えーと……かつての隣国を統治するヒト……。
えーと……えーと……旧タルゴーヴィ国は、暫定的にタルゴーヴィ州になって、その時には州知事を置いたのよね。
で、前皇帝が崩御されて、現在の皇帝が即位されてから、州を公国に改めた。
タルゴーヴィはもともと商業の盛んな国だったから、経済大国で……皇族の中でも特に優秀なイズミヌさまが大公になられたはず。
そのイズミヌさまの息子ってことは……ほぼ、王子様?
正確には、公子さま……ひや~~~~。