ユートピアからの放逐 7
私の家は、カピトーリで有数の商業特区にあった。
父は11代続く商家の三男で、分家筋の店に養子に入り5代目を襲名した。
実母は貴族の末端、貧乏騎士の出だったそうだが、慣れない商家に嫁いだ気苦労からか、兄2人と私をちょうど2年おきに産んで、やはり2年後に死んでしまった。
子供3人を抱えた父は、平民議員でギルドマスターでもある親戚から後妻を迎えた。
継母は、カピトーリで1、2を争う大商家の当主モーリおじさんの末の妹で、とても優しいたおやかな女性だった。
父は、心休まる伴侶を得て、安心して仕事に打ち込んだ。
おかげで、我が家はずっと裕福だった……予定外の巨額の出費に一時的に枯渇した時以外は。
本家の当主つまり父の兄が夭折すると、父はまだ幼い兄の子の後見人となり、2つの店を切り盛りした。
周辺のはぶりのよい老舗商家は、みなギルド仲間で、何代にもわたって密なつきあいをしている。
姻戚関係は複雑で、町内みんな親戚といった感覚だ。
商売の上でも、競い合い潰し合うようなことは一切なく、むしろ助け合い、融通し合っていた。
私にふってわいた縁談というのも、おそらく親戚の誰かが持ち込んだ話ということだろう。
その夜。
継母の心尽くしの手料理を楽しんだあとで、思い切って私から切り出してみた。
「私に縁談があるの?どんなかた?」
すると、父は困った顔になった。
継母が紅茶を入れながら答えてくれた。
「そうなのよ。以前から、フィズのお相手を兄に探していただいてたんですけどね、……ほら、フィズ、お勉強熱心でしょ?……成績優秀で王宮で表彰されたり、神宮修女から修士に昇進したり……立派になりすぎて、一介の商人には釣り合わなくなってしまったのねえ。なかなか、フィズに相応しい殿方が現れなくて、兄も匙を投げてしまっていたのよ。」
……うん。
知ってる。
てか、それが狙いの1つでもあった。
一緒に育った商家の娘たちは、みな、花嫁修業を一通り済ませて、家格の釣り合う商家へと嫁いだ。
仲良しだったトミルお姉ちゃんのように、貴族や騎士、なかなかないけど皇族や重臣に見初められて、玉の輿に乗る子もいれば、妾として屋敷を与えられ囲われるケースもあることはあった。
でも、私は……好きでもない男性に嫁ぐことに、ものすごく抵抗感を覚えていた。
せめて、恋がしたい。
出逢いはお見合いでも、紹介でもいいから、相手のことを知り、愛を育む時間がほしい。
その上で、私にも、相手と将来を送るかどうか、選ばせてもらいたい。
私が相手を嫌だと感じたら断ることのできる、選択の余地がほしいのだ。