噂のエル・ドラド 5
何か、お仕事を取り上げられてしまうみたい。
「……どうしても、宮殿に住まわなければなりませんか?」
本当ならものすごく名誉なことだとはわかっているけれど……ついついそんな聞き方をしてしまった。
皇帝は苦笑された。
「ご不便をおかけいたしますが、どうかそうなさってください。そして私達の家族として、共に食卓を囲み、共にお暮らしください。」
皇族の家族は、ほぼ皇族……ってか?
参ったな。
「……やっと、他人様のお役に立てると思って参りましたのに……」
途方に暮れる私を、皇帝陛下はたいそう珍しいものを見るように見つめてらした。
その瞳がだんだんとキラキラと甘い輝きを帯び始めたことには……気づかないふりをした。
***
こんなはずじゃなかったのに……どうしてこうなってしまったのかしら……。
私は、乳母として後宮の臨時女官になるはずだった。
しかしタルゴーヴィ大公さまのご厚意が皇帝陛下を動かし、宮殿で皇族の一員として暮らすことになった。
それからわずか数日後のこと。
皇孫さまにお乳を含ませているところに、皇后さまがお越しになった。
慌てて身を隠そうとしたけれど、皇后さまは鷹揚におっしゃった。
「そのままお続けくださいまし。あなたがいらしてから、皇孫は以前より元気になりましたね。まるまる太って、ご機嫌もよろしくって……フィズさま、ありがとう。」
「めっそうもございません。もったいない。」
確か、シーシアさまのお母様の縁続きでいらっしゃる皇后さまに、そんなふうにおっしゃっていただいて、私はただただ恐縮した。
皇后さまは、柔らかくほほえんで……信じられないことを仰った。
「皇孫だけではありませんわ。皇帝陛下も、フィズさまをたいそうお気に召していらっしゃいますの。本当は後宮にお入りいただきたいのですが、タルゴーヴィ大公さまが怖くて言い出せないでいらっしゃいますのよ。……大公さまの手前、フィズさまを側室や公妾にするわけにはいきませんものね。」
「……。」
返事も相槌も打てない。
急に、何をおっしゃるつもりだろうか。
……これは……言外に釘を刺されているのか……それとも出ていけと言われているのかしら。
身を小さくして、皇后さまの次のお言葉を待った。
すると皇后さまは、くねっとしなをつくり、かわいらしく媚びて私に手を合わせて懇願した!
「お願いします。皇帝陛下の秘密の恋人になってくださらないかしら?大公さまにも、誰にも、わからないように。」
「は?」




