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エデンは遠くなりにけり 15

2人のお付きを連れ、沢山のお土産や贈り物を積み上げて大公さまの美々しい立派な馬車で乗り付けたので、ご近所さんも親戚も、誰も、離婚前提で出戻ったとは思わなかったようだ。

自宅の改装のため、少し早めに里帰りをして出産に備える……両親ですら、そう信じて疑わなかった。


しかし、数ヶ月が過ぎて……さすがに継母が、何かおかしいと気づいた。


「……大公さまからはしょっちゅう贈り物や書状が届くのに……旦那さまからは、どうして何もないの?……お仕事、お忙しいかたなの?……お休みの日に、フィズのお顔を見にいらしてもいいのに……。」

「これ。めったなことを言うもんじゃない。……それに、フィズではなく、キトリだよ。」


父にたしなめられて、継母は口を押さえた。

でも、私は……嘘をつくことに疲れていた。


「フィズでいい。もう、キトリには戻らないから。……ジョージオさまは、何のお仕事もされてないわ。ただの高等遊民。無職のプー。……会いに来ないのも、書状がないのも……そういうことよ。」


継母の眉間に皺が寄り、わなわなと震え始めた。

これは……怒ってる……かなり、怒ってはるわ。

父も気づいたらしく、継母の背中をさすって宥めてから、私に尋ねた。


「……お前の気持ちは、もう、固まっているのかい?……それでいいのかい?」


ちょっと泣きそう……。

でも私は、むしろ顎を上げて、ハッキリと宣言した。


「はい。もうタルゴーヴィには戻りません。……大公さまには申し訳ありませんが……お父さま、離縁の方向でお話を進めてください。」


言葉にしたら、ようやく腹が据わった。

お義父さまのお気持ちは大変ありがたいけれど、やっぱり、もう無理だ。

あの夏の日から、ジョージオさまとは途切れてしまったまま……お互いに書状すら送らないって、もう、終わってるってことでしょう。

お腹の子にはかわいそうだけど……。


ずいぶんと大きくなったお腹を抱えるようにうずくまったら、泣けてきた。

すんと鼻をすすったら、父がため息まじりに言った。


「……ジョージオさまの館だが……昨秋から、ずっと、玄関にもドアにも木が打ち付けてあって、誰も出入りできない状態らしい。夜になっても電灯もつかないし、どなたもいらっしゃらないようだ。……それにこれは噂だが……ジョージオさまは心神喪失状態が続いてらっしゃって……禁治産者となられるかもしれない。」


全て初耳だった。

てっきり、あの館でゆっくり過ごしてらっしゃるかと思っていた。


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