ユートピアからの放逐 5
シーシアさまの白金の髪と似て非なる、白い髪。
いや、比較するのも失礼だろう。
シーシアさまの髪は色が白っぽいだけで、つやっつやに輝く白金だもん。
白髪先生は、その肌と同じで、若さの失われた老化した髪にしか見えないし。
「ヘイー先生。そろそろ戻らないと、みなさんがお見えになりますよ。」
ブンザくんに急かされて、ヘイー先生と呼ばれた白髪先生は、私に深々と頭を下げた。
「それでは、失礼いたします。かつてよりは治安がよくなったとは言え、妙齢の女性の一人歩きはやはり危険です。暗くなる前にお帰りなさい。……そう言えば、お金はお持ちでないと言ってましたが……迎えが来るのですか?」
よほど危なっかしいのだろうか。
私は苦笑した。
「はあ。えーと……迎えの者は先に帰ってもらいました。大丈夫です。方向はわかりますので、歩いて帰ります。」
しかし、大丈夫とは思ってもらえなかったらしい。
白髪先生は、懐をまさぐった。
「では、馬車代を私が出しますので、」
「いえ!けっこうです!そんな!」
見知らぬ人にお金をもらうわけにはいかない。
あわあわしている私の前で……白髪先生は懐に手を入れたまま固まってしまった。
ん?
どうかしたの?
首を傾げた私に、白髪先生はやるせないため息をついた。
……ドキッとするほど……枯れた色気がだだ漏れた。
あれ?
このヒト、もしかして……かっこいい?
それとも、私、ずっと神宮院にいて男性と接してなかったから……免疫なくなってるのかしら。
ドキドキし始めた胸を隠そうと、巾着を持った両手を組んだ。
白髪先生の頬が赤らんだ。
つられて、私の頬も熱を帯びた。
「……恥ずかしながら……」
「はい?」
白髪先生の言葉の続きに、ついつい期待してしまった。
しかし、続く言葉は、そんなロマンチックなものではなかった。
「……私も、スリの被害に遭っていたようです。財布が、消えました。」
「へ!?」
ぽかーんとする私の横で、ブンザくんが目を三角にして怒った。
「またですか!もう!ヒトのことばかりじゃなく、自分のことにも気をつけてください!」
「……面目ない。」
ブンザくんに叱られて、白髪先生はしょんぼりしてしまった。
……かわいすぎる……。
やばい。
おっさんなのに、さっきまであんなに偉そうだったのに、何なんだ、このカワイイおじさんは!
「大変。先ほどの警備のかたがたを呼んできましょうか。」