エデンは遠くなりにけり 3
温泉街は、やはりとても賑やかだった。
宿のみならず、お土産物屋さんや、レストランやカフェ……そして、男性向けの娼館もいくつもあった。
ジョージオさまは、この界隈では有名らしく、いろんなかたがたに声をかけられた。
その都度、とてもうれしそうに私を紹介するジョージオさま。
女性の反応があまりよくない……というか、敵意を感じるのは、やはりそういうことだろうか。
「……人気がおありですのね……女性に。」
そう言ったら、ジョージオさまはうれしそうにほほえまれた。
「妬いてらっしゃるのですか?……ふふ。」
……妬いて……は、いないかな。
でも、焼き餅を焼かせたい意図はわかったので、小声で肯定した。
「はい。」
……ジョージオさまは、とてもご満悦だった……。
はあ……。
***
河原のカフェでは、お昼ご飯をいただいた。
てっきり山や川のお魚のお料理が出るのかと思ったら、宮殿と同じようにバラエティーに富んだ山海の珍味が贅沢に並んだ。
「……本当に、おいしいですね。」
感心する私に、ジョージオさまは目尻を下げていた。
「よかった。キトリが喜んでくれて。……ここは、素晴らしいでしょう?」
「はい。山の中なのに、何もかもが洗練されていますね。」
食事だけじゃない。
女性も、とても美しいひとが多い。
温泉で肌が磨かれているのだろうか。
「あら……いい香り……。」
不意に甘い香りが漂ってきた。
ちょうどジョージオさまのすぐ後ろのテーブルに、老紳士と臈長けた美しいご婦人が近づいてらした。
あのご婦人の香水だろうか。
くんくんしてると、……ジョージオさまの顔が固まった。
ん?
お行儀、悪かったですかねえ?
慌てて居住まいを改め、姿勢を正した。
でもジョージオの目は私を見ていなかった。
「ジョージオさま?」
声をお掛けしたら、ジョージオさまの顔が苦虫を噛み潰したかのように歪んだ。
え?
なんで?
理由はすぐにわかった。
「まあ……ジョージオさまでいらっしゃいますか?いつ、こちらへ?」
美しいひとに相応しい美しい声で、ご婦人がジョージオさまに話し掛けた。
白い肌に赤い唇。
ばっちりフルメイクをきめているから正確にはわからないけれど……んー……40才前後というところだろうか……華やかな美人さんだった。
「……ごきげんよう。マーサ。」
渋々といったていで、ジョージオさまがご挨拶された。
マーサと呼ばれたご婦人は、私にも会釈をした。
慌てて、私もぺこりと頭を下げた。
ジョージオさまが硬い声で私を紹介した。
「マーサ。妻のキトリです。」
「あら。奥様でいらっしゃいますか。まあまあ、それは、失礼いたしました。」
「……はじめまして。キトリと申します。」




