アルカディアの誘い 18
私たちは、特に何も話さなかった。
ただ、日陰に並んで座って、シーシアさまの目覚めを待った。
不意に、ヘイー先生が懐から小さな容器を出された。
丸いガラスの器には、小さな魚が泳いでいた。
黒っぽい子、白っぽい透明な子、赤い子、そして銀灰色に光っている子。
「綺麗ですね。」
小声でそう言ったら、ヘイー先生の顔がほころんだ。
白髪のおじさんなのに、少年のような笑顔だ。
「そうですか。綺麗と言ってくれますか。……女性は気持ち悪く思うものかと思っていました。」
「あら、だってこんなに小さくて、キラキラしてて。かわいいと思います。……この海で捕まえたのですか?」
そう尋ねると、ヘイー先生はうれしそうに説明し始めた。
「いえ。この子たちは、海の生物ではありません。小川や水田や用水路……つまり、どこにでもいる雑魚を交配して、観賞用に改良いたしました。選別と自然交配を繰り返しただけなのですが、元の子たちより強く美しくなる子もいれば……美しくとも弱々しくなってしまう子もいますし、交配しようとしない子もいます。奇形を美しいと好む風潮もあります。……そのあたりの趣向は私にはよくわかりませんが。」
「では、ヘイー先生が?生み出してらっしゃるの?……すごい……。」
お世辞ではなかった。
「……すごい、ですか?」
「はい。すごいです。もともとそのへんの雑魚だということは、誰もが簡単に家で飼うことができるのでしょう?しかも、交配を進めれば、もっといろんな子たちが生まれるのでしょう?……これ、……売れますわ。」
思わず、商売っ気を出してしまった。
ヘイー先生は、目を丸くして……それから、笑った。
「しーっ。」
「……っと、失礼。そうですか。売れますか。」
ヘイー先生は、しばらく肩を震わせていた。
笑われているのに、嫌な気はしなかった。
馬鹿にされているわけではないことは伝わってきたからかしら。
「……ここに持ってきたのは、この子たちが海水に耐えられるか実験するつもりだったのですが……せっかく、そなたにかわいいと言ってもらえたのに、危険にさらすのはかわいそうですね。辞めます。」
ヘイー先生はそう言って、小さなガラス鉢を私に差し出した。
「え……。」
「よろしければ、どうぞ。」
「いいんですか?……ありがとうございます。大切に育てます。」
びっくりしたけど、色とりどりの小さなお魚はとてもかわいくて……何だか胸がドキドキしてきた。
「交配して、珍しい子が産まれたら、教えてください。」




