アルカディアの誘い 17
ヘイー先生もまた、私を観て、驚き……それから、目を細めた。
「これはこれは。……その節は、大変失礼いたしました。たくさんのお菓子をお持ちくださったのに、お礼も言えませんでしたね。ありがとうございました。とてもおいしかったです。みな、大喜びでした。」
そう言って、ヘイー先生は深々と頭を下げた。
びっくりして、私も慌てて頭を下げた。
「いえ、そんな!失礼なのは私のほうです。助けていただいた上、過分な金貨をお借りしてしまって、ありがとうございました。直接お目にかかってお礼を申し上げなくてはいけませんのに、失礼いたしました。」
クスッと、ヘイー先生が笑った。
白い髪は相変わらず無造作に束ねられていたけれど、以前よりも肌が浅黒く焼けていて、少しだけ健康そうに見えた。
同じことをヘイー先生も思われたみたい。
「いい色に焼けてますね。……もしや、毎日、シーシアさまと浜で過ごしておられるのですか?」
「はい。……シーシアさまを、ご存知なのですか?」
まさか、このヘイー先生も、皇族だったり、ご親戚だったりするのだろうか。
……まあ、確かに、浮き世離れはしてらっしやるけど……それにしては、身なりにかまわなさすぎるというか……。
ヘイー先生は、苦笑された。
「神の花嫁でいらっしゃいますから、それはもちろん存じ上げておりますが……公的な場で幾度かお目にかかったことがある程度です。……今日は、使者として参りました。」
ちょっと、ほっとした。
……結婚してから、高い階級の人たちとばかり知己を得て、私もずいぶん背伸びをしている自覚がある。
しかしヘイー先生は、先生とお呼びしながらも、何となく……同じ人種のような……そんな親しみを感じていた。
「そうでしたか。……お急ぎですか?」
シーシアさまを起こしたほうがいいのかと、暗に尋ねた。
ヘイー先生は、首を横に振った。
「いいえ。……不敬かもしれませんが、せっかく楽しんでらっしゃいますのを邪魔したくありません。自然にお目覚めになるのをお待ちいたします。」
そう言ってから、ヘイー先生はこみ上げる愉悦に肩を揺らした。
「……では、あのふざけたお姿は、そなたの仕業ですか?」
「は!?違いますっ!私じゃありません!」
慌てて、否定した。
……あの悪趣味な膨れ上がった女体の砂山の汚名を着せられてはなるものかと、思わず憤慨した。
ら、今度は逆にヘイー先生に
「しー。お静かに。シーシアさまが起きてしまわれますよ。」
と、窘められた。
くやしかったけれど……なんだかおかしくて笑えてきた。
ヘイー先生も、穏やかに微笑んでいた。




