アルカディアの誘い 7
なるべく心を落ち着けて、静かにそう言った。
ら、大公さまはようやく頭を上げて、言いにくそうに仰った。
「フィズどのに直接仇なした者の足取りはつかめない。しかし屋敷の者……いや、残念だが、私の家族だ……家族の誰かの命令によって細工されたことは間違いない。……だから、私の責任だ……。」
じっと大公さまを見つめた。
大公さまは、苦悩していらした。
昨日、妊娠を報告したときは、慈愛の瞳で見つめてくださったのに……。
小さくため息をついてから、私は申し上げた。
「いえ。やはり私が悪いのです。……なるべく御家族を疑いたくはありませんでしたが……ずっと身の危険を感じていました。用心が足りませんでした。」
「フィズ。すまない。……あなたに、そんな想いをさせていたなんて……」
ジョージオさまは涙ぐんでらした。
大公さまは、ジロリとジョージオさまをねめつけた。
「感傷的になっても何も変わらん。積極的に事態を打破したいと思う。フィズどの。いや、フィズを我が家に迎える。正式に、そなたはうちの嫁だ。……もうご自分の身分に負い目を感ずることはない。このタルゴーヴィ大公家の一員として生きていただけないか。……ジョージオのためにも、頼む。」
再び大公さまは、頭を下げた。
びっくりしたけれど、ジョージオさまが泣きながらも笑顔になったのを見て、私はうなずいた。
「ありがとうございます。お父さま。末永く……幾久しく、よろしくお願いします。」
ホッとした大公さまは、ようやく微笑んでくださった。
「よかった。そなたを義娘と呼べることを誇りに思う。安心して静養し、身体を休めよ。……ジョージオ。当分、フィズどの……いや、フィズに無理強いしてはならん。身体が癒えるまで、主治医が許すまでは、控えよ。」
重々しく仰ってはいたけれど、大公さまの頬が少し赤かった。
ジョージオさまは、涙ながらに、何度も頷いてたした。
「よかった……よかった……よかった……」
繰り返し、むせび泣きながら……。
***
大公さまの行動は素早かった。
その日のうちに、私たちの正式な婚姻が成立し、大公府発行の官報で周知された。
兄が祝福に駆け付けたそうだが、面会させてもらえず……言葉だけが伝えられた。
さらに翌日、カピトーリの両親から書状が届いた。
昨日のうちに、大公さまは正式な婚姻の証として、お輿入れの時よりもはるかに多額の化粧料を届けてくださったらしい。
「もちろんあなた個人にも化粧領地が下賜されましたよ。」
すっかりご機嫌のなおったジョージオさまが目録を笑顔で読み上げてくださった。




