桃源郷への道 14
「もしかして、名だたる名家の姫君さまは、皆様、ジョージオさまのお手付きなのですか?」
婚約という形をとってはいるものの、やっぱり後宮みたい。
ジョージオさまは、辛そうに息をついた。
否定しないのか……。
はっは。
「もしかして、神宮院にいらしていたのも、シーシアさまに逢いに……とかじゃなくて……皇族や貴族の神宮修女が婚約者だったから?」
ジョージオさまは、苦しそうに頷いた。
わー。
そうか。
知らなかった。
つまり、どなたかはわからないけれど、私が存じ上げている修女のお姉さまも……ジョージオさまと婚約されていたんだろうなあ。
「……傷つかれましたか?」
ジョージオさまが、とても不安そうに私の顔を見つめている。
捨てられそうな子犬みたい……。
……エメラルドみたいな緑の瞳に、ざわざわと不穏な影が揺れている……。
私は、脱力して、ため息をついた。
そして、ジョージオさまのお顔を見上げて、苦笑した。
「正直に申し上げますと、ものすごく驚きました。……でも、傷ついてはいません。」
ジョージオさまの目尻に涙がにじみ、一筋、流れ落ちた。
その涙をそっと指で払ってさし上げた。
「もし、こちらに来る前に、お伺いしていたら、躊躇して、逃げ出してしまったかもしれません。でも、私は、もう、ジョージオさまとお会いしてしまいました。……ジョージオさまのお気持ちを、とてもうれしく思います。」
ジョージオさまは大きく目を開き、そしてくしゃっと綺麗な顔を歪めて笑われた。
「そうですか……。よかった……。」
両の頬に涙が伝う。
「もう、泣かないでください。……ご親戚のみなさまが、何事かと驚かれますわ。」
「……ええ。そうですね。晴れの席に、涙はふさわしくありませんね。……フィズ。ありがとう。愛してます。どうか、私と共に生きてください。」
キラキラした瞳で、ジョージオさまは仰った。
私は、大きくうなずいた。
「はい!」
……一片のためらいもなかった。
ジョージオさまは言わなかったけれど、ここにこうして私が迎えられるには、相当な軋轢があったのではないだろうか。
私を見初めた時に、7人目の婚約者がいた、と仰ったわ。
もしかしたら、8人目のお相手探しの時に、ジョージオさまは私を望まれたのかもしれない。
でも、現実的には、私は13人目。
つまり少なくとも5人の女性のほうが、私よりも優先順位が高かったということ。
……まあ、詳細はわからないし、これ以上は詮索したくない……気がする。
欲しい情報は、充分得られたわ。
私の前に12人の女性が、ジョージオさまの婚約者としてお輿入れをされて、去られた。
……13人目……か……。




