桃源郷への道 5
父は、また一つため息をついた。
「……そうか。頑張りなさい。……つらくなったら、いつでも戻って来ればいいからな。」
「はい。でも、里帰りは妊ってからにします。」
その時は、晴れてジョージオさまとご一緒に、父と継母に報告したい。
父はもう、何も言わなかった。
でもいつまでたっても、寝息は聞こえなかった。
……たまに、鼻をすするかすかな声がして……父が泣いていることに気づいた。
長い長い夜になってしまった……。
***
翌朝は、何だか寝不足だった。
花の咲き乱れる庭園でのジョージオさまとの優雅な朝食の後、父は大公さまに辞去のご挨拶をしてカピトーリに帰って行った。
昼食のとき、初めて2人きりでジョージオさまと対峙した。
「お疲れのようですね。夕べは、よく眠れませんでしたか?」
気遣わしげなジョージオさまの言葉に、私は思わず自分の目の下に触れた。
「……もしかして、目の下に隈ができてますか?やだ、どうしよう……。」
今夜は、ご家族のみなさまにご紹介していただく、いわば身内だけの披露宴なのに。
あわあわし出した私に、ジョージオさまは笑顔でおっしゃった。
「大丈夫ですよ。昨日よりお顔の色はすぐれませんが、透き通るように青白く儚げでとても美しいですよ。それに、瞳も大きく、潤んでいて、艶っぽく見えます。……お気になさる必要はありませんが……お身体を損ねては大変だ。……よろしければ、午後から少し午睡なさいますか?」
……お昼寝……いいの?
昼からは、ジョージオさまがこちらのお屋敷を案内してくださるはずだった。
でも、まあ……正直、別に案内していただく必要もないのよね。
どうせ、ここに住むわけでもないし。
「ありがとうございます。それでは、少しだけ、よろしいですか?」
「もちろんです。午睡は身体によいと、主治医も言ってますので、私も毎日、取り入れているのですよ。」
……は?
主治医?
毎日、昼寝?
えーと、お仕事は……?
もしかして、どこか、お身体が悪いの?
とてもナイーヴなことなので、ずばっと聞いていいのかどうかためらっていると、ジョージオさまが首を傾げた。
「恥じらってらっしゃるのですか?……さすがに、同衾は、いたしませんよ?……今は。」
「え!あ!いえ!そういうことではなくってですねえ!」
同衾!
びっくりして、椅子から数センチ跳ね上がってしまった。
……いや、もちろん、結婚するんだし、赤ちゃんを産むことを要求されてるんだし……覚悟してないというわけではない。




