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桃源郷への道 4

「明るいおかたでよかったな。」


客室に戻ってから、父がそう言った。


「……そうね。明るいし、優しいし、楽しいおかたのようね。」


父も、私も、言葉を選んでいた。

2人とも、既に何となく違和感も覚えていたが、取り越し苦労だと思おうとした。

……ジョージオさまと大公さまは、反りが合わないことは間違いなさそうだ。

そのために、ジョージオさまは、多少、軽薄な物言いをされたのだろう。

ジョージオさまご自身が浅薄だとは思わないように努めた。


同じ想いを抱いたのだろう。

寝室の灯りを落としてしばらくしてから、父が言った。


「フィズ。お前は、賢い。……誇示しなくても、ひけらかさなくても、お前の知性は伝わるから……なるべく慎みなさい。疑問に思うことがあっても、口に出すと、反抗になってしまうものなんだよ。多少、目に余ることを言われても、はい、と常に我慢して肯定すれば、素直なイイ子だと可愛がってもらえるから。……卑屈になる必要はないが……我慢しなさい。」


暗闇だからこそ、父の言葉の重さがよくわかった。


「……まるで、使用人に教育しているみたいね。」


そう呟いてしまってから、私は慌ててつけ足した。


「あ、はい!……そうね、お父さまのおっしゃる通りね。まず、はい!と言うべきね。わかりました。お父さま。気をつけます。」


父のため息が、聞こえてきた。

そのあと、しばらくして、父は先ほどより小声で言った。


「……この期に及んで、まだ私は、本当にこれでよかったのか……明日、お前を連れて帰ったほうがいいんじゃないかと迷っているよ。」


父の愛情が伝わってきて……鼻の奥がつーんとしてきた。

涙がこみ上げてきたわ。

でも、今泣いたら、父にますます心配をかけてしまう。

かといって、寝たふりをしても、タヌキ寝入りとすぐにわかってしまうだろう。

私は、泣かないように、なるべく心を落ち着けてから、言った。


「ありがとうございます。ジョージオさまはお優しそうですし、大公さまは尊敬できるおかたのように思いました。……私、こちらで、うまくやっていけると思います。」


強がりではなかった。

ジョージオさまが、もっと嫌な奴だったら、逃げ出したいと思ったかもしれない。

でも、どこからどう見ても完璧な王子様な容姿と、優しい甘い雰囲気に嫌悪感を抱くわけがない。


……一目惚れとまではいかなくても……既に私はジョージオさまと夫婦関係を築いていくことに、ときめきを感じていた。


乙女らしく、のぼせあがっていたと言ってもいいかもしれない。


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