桃源郷への道 3
やはり食卓に並んだお料理も、至れり尽くせりだった。
……旅疲れを配慮していただいたらしいあっさりしたお料理から、ボリュームのあるお肉料理、新鮮なお魚料理、甘い油の香る贅沢なお料理……かつて見たこともないような山海の珍味がテーブルいっぱいに並べられた。
「さあ、遠慮なく、召し上がってください。お父上さま、私がお取り分けいたしましょう。どちらから、召し上がられますか?」
ジョージオさま自ら、大きなフォークとナイフを駆使して私たちにお料理を給仕してくださって……ただただ恐縮した。
「あの、私が……」
一応そう申し出てみたけれど
「客人や家族に振る舞うのは、当主の役目ですから。」
と、屈託のない笑顔でおっしゃられた。
美形の公子さまがよそってくださるなんて、それだけでどんな料理でも美味しくなりそうだ。
……実際、どのお料理も、とても美味しかった。
私達、一般庶民の家では、料理も給仕も女性の役目であることが多い。
使用人がいる家ならば使用人に任されることもあるが、基本的にはその家の家政を執り行う女性……多くの場合は当主の妻が勤めるものだろう。
しかし貴族の家は違う場合もあるのだろうか。
「それでは、大公さまのお屋敷では、大公さまご自身が、ご家族のみなさまの分のお料理をお取り分けしてくださるのですか?」
デザートのフルーツをいただきならが、そう尋ねてみた。
すると、ジョージオさまは肩をすくめた。
「あの人は、そんな面倒なことはしませんよ。父は忙しいので、食事に時間をかけませんし、興味も執着もありません。会食も多いし。……ああ、公的な食事会を主催するときだけは、儀礼として賓客に取り分けますね。」
そこまで言ってから、ジョージオさまは、ふと微笑まれた。
「明日の夕食の時に、フィズには取り分けてくださるかもしれませんね。」
「……え……そんな……辞退できないんですか?緊張します。」
そう言ったら、ジョージオさまは一瞬キョトンとして、それから楽しそうに笑った。
「おもしろいことをおっしゃいますね。フィズ。是非試してみてください。父がどんな反応をするか、楽しみです。」
「ジョージオさま、お戯れを。フィズ!そんな失礼なことは絶対しないように。……この通り、作法も常識も知らぬ、何もできない娘でございます。どうか、お導きください。」
父が真面目に頭を下げたので、多少ふざけていたジョージオさまは、少し慌てていらした。
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