桃源郷への道 2
「頭を上げてください。はじめまして。ジョージオです。遠いところ、疲れたでしょう。どうぞ。」
目の前にさし出された白い手……指細っ!
美しい手をまじまじと見つめてから、慌てて私の手を乗せた。
そうして、ジョージオさまに手を引かれ、私はようやく顔を上げた。
……先に目の前のジョージオさまにご挨拶すべきか……やはりここは大公さまを優先すべきか……一瞬、逡巡した。
ええい!いっぺんに済ましちゃえ!
私は、手を預けたジョージオさまに、にっこりとほほえんでから、大公さまを見上げてご挨拶を述べた。
「はじめまして。大公さま。ジョージオさま。フィズと申します。どうぞ、よろしくお願いいたします。」
威厳はあるけど優しいほほえみで大公さまはうなずいた。
「今夜は、こちらで旅の疲れを癒やされよ。明日、この屋敷に家族を集めて、そなたを紹介する予定だ。……ジョージオの館へ移るのは、明後日でよかろう。……よいな?」
最後の言葉は、私ではなく、ジョージオさまに向けられていた。
声のトーンも表情も変わって、少し驚いた。
大公さまは、どうやら、ジョージオさまに厳しいらしいことが、何となく伝わってきた。
ジョージオさまは、慣れているのか、それとも気づいてないのか……一向に気にする様子もなく、ニコニコしてらした。
頭が弱いとは思わないけれど……私の到着に浮かれてらっしゃるってことかしら?
よくわからないけれど、キラキラ甘く輝く瞳が、私への好意であふれていた。
……温度差はあるけれど、なぜか私は、舅にあたる大公さまにも、夫となるジョージオさまにも、とてもとても歓迎されていることは確かだった。
***
この日は、気を使われているらしく、父と2人で過ごせるようにと、ベッドが2つある大きな広い寝室に案内された。
私を送り届けたらすぐに辞去するはずだった父は、余儀なく大公さまのお屋敷に一泊することになった。
「……至れり尽くせり……だな。」
準備された新品の絹の夜着を手に取って、父はため息をついた。
「本当に。お茶もお菓子も、まさに至れり尽くせりですね。」
私からも、自然とため息が漏れた。
まもなく夕食の頃合いだというのに、数々のフルーツやケーキが準備されていた。
どれも趣向を凝らした、みるからに美味しそうなものだ。
食べたい気もしたけれど、たぶん緊張で少し胃が痛い気がしたので、紅茶だけいただいた。
夕食は、大公さまのお計らいで、父と、ジョージオさまの3人でいただいた。




