ユートピアからの放逐 15
「遅いよ。もう来ないかと思った。」
ブンザくんは不機嫌そうにそう言った。
「ごめんなさい!ちょっとバタバタしてて……。あの、この間は、ありがとうございました!これ、皆さんで、召し上がって下さい!」
謝ってお礼を言ってから、マドレーヌと金貨を差し出した。
ブンザくんは、受け取りながら、けんもほろろに言った。
「ヘイー先生なら、いないよ。オピリアに行かれた。4日は戻られない。」
「……そう。ごめんなさい。すぐ来れなくて。……よろしくお伝えください。」
たぶん、もうお会いすることもないだろう。
とにかくお礼を言って帰ろうとしたら、先ほどの女の子がやってきた。
マドレーヌが気になるらしい。
「あとで食べてね。……って、ごめん、マドレーヌにお酒入ってるけど大丈夫かな。……塾って、ちっちゃいお子さんの塾だったの?」
てっきり生徒は、ブンザくんぐらいの少年から大人だと思ってた。
「いや。大人ばかりだよ。……この子は、先生の娘さん。お菓子の香り付け程度の酒なら、大丈夫だよ。」
え!
白髪先生なのに、こんなちっちゃい子がいるの?
驚いたけれど、背伸びして、マドレーヌに一生懸命手を伸ばしている姿が愛らしくて愛らしくて……
「どうぞ。」
ブンザくんに渡したマドレーヌから1つ取り出して、しゃがんで渡した。
「ありがとう。」
澄んだ声でお礼を言うと、女の子は、また走って屋敷へと入って行った。
「やば!めっちゃかわいい!」
ジタバタする私を白い目で見ながらも、ブンザくんは当たり前だとばかりに頷いた。
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3日後、タルゴーヴィ公国から迎えの馬車が来た。
継母の準備してくれた荷物をいっぱい積み込み、父と列んで座った。
「……お父さまとこんな風に遠出するのは、ジェムチの神宮へ行った時以来ね。5年ぶりかしら。」
まだ少女だった頃を懐かしく思い出した。
父もまた遠い目をした。
「早いものだな。」
「あの頃は、まだお兄さまたちもうちにいて……賑やかだったわね。」
今は、それぞれの出店を任されている兄たちは、それでも月に1度はカピトーリの本店に帰ってくるらしい。
……会いたかったな……。
「……フィズが出産すれば、すぐに盛大な結婚式だ。来年には、逢えるよ。」
遠い目をした父に、私は小さくうなずいた。
神宮院での3年間も、ほとんど家族と過ごすことはなかった。
それでも、式典やバザー等の行事の折々に逢うことはできた。
でも今度は、そういうわけにはいかないかもしれない。




