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ユートピアからの放逐 15

「遅いよ。もう来ないかと思った。」


ブンザくんは不機嫌そうにそう言った。


「ごめんなさい!ちょっとバタバタしてて……。あの、この間は、ありがとうございました!これ、皆さんで、召し上がって下さい!」


謝ってお礼を言ってから、マドレーヌと金貨を差し出した。

ブンザくんは、受け取りながら、けんもほろろに言った。


「ヘイー先生なら、いないよ。オピリアに行かれた。4日は戻られない。」

「……そう。ごめんなさい。すぐ来れなくて。……よろしくお伝えください。」


たぶん、もうお会いすることもないだろう。

とにかくお礼を言って帰ろうとしたら、先ほどの女の子がやってきた。

マドレーヌが気になるらしい。


「あとで食べてね。……って、ごめん、マドレーヌにお酒入ってるけど大丈夫かな。……塾って、ちっちゃいお子さんの塾だったの?」


てっきり生徒は、ブンザくんぐらいの少年から大人だと思ってた。


「いや。大人ばかりだよ。……この子は、先生の娘さん。お菓子の香り付け程度の酒なら、大丈夫だよ。」


え!

白髪先生なのに、こんなちっちゃい子がいるの?


驚いたけれど、背伸びして、マドレーヌに一生懸命手を伸ばしている姿が愛らしくて愛らしくて……


「どうぞ。」


ブンザくんに渡したマドレーヌから1つ取り出して、しゃがんで渡した。


「ありがとう。」


澄んだ声でお礼を言うと、女の子は、また走って屋敷へと入って行った。


「やば!めっちゃかわいい!」


ジタバタする私を白い目で見ながらも、ブンザくんは当たり前だとばかりに頷いた。



****************


3日後、タルゴーヴィ公国から迎えの馬車が来た。

継母の準備してくれた荷物をいっぱい積み込み、父と列んで座った。


「……お父さまとこんな風に遠出するのは、ジェムチの神宮へ行った時以来ね。5年ぶりかしら。」


まだ少女だった頃を懐かしく思い出した。

父もまた遠い目をした。


「早いものだな。」

「あの頃は、まだお兄さまたちもうちにいて……賑やかだったわね。」


今は、それぞれの出店を任されている兄たちは、それでも月に1度はカピトーリの本店に帰ってくるらしい。


……会いたかったな……。


「……フィズが出産すれば、すぐに盛大な結婚式だ。来年には、逢えるよ。」


遠い目をした父に、私は小さくうなずいた。


神宮院での3年間も、ほとんど家族と過ごすことはなかった。

それでも、式典やバザー等の行事の折々に逢うことはできた。

でも今度は、そういうわけにはいかないかもしれない。


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