夢に楽土を求めたり 23
私は覚悟を決めて、ディーツアさまに言った。
「ブンザくんも……それを聞いていたディーツアさまも……とてもお辛かったですね……。でも本当に、未遂でよかった……。そのような行為は、一方的な想いで無理矢理遂げるものではありません。無理強いしても、誰も幸せになりません。……私も、思い出すだけで……これです……。」
「え……。」
ディーツアさまは目を見開き、そして両手で口を覆った。
愛らしい小さな白い手がかわいらしくて……心が凪いでゆく……。
とりあえず、落ち着こう。
私は、大きな深呼吸を繰り返してみた。
ディーツアさまが小声で尋ねた。
「では、フィズさまは……前の旦那さんから酷い仕打ちをされてらしたのですか?」
慌てて私は手を振った。
「あ、それは違います。前の旦那さんは繊細過ぎるほど優しいかたでした。離婚した後、宮殿で、皇帝陛下に、……」
大人びているとはいえ、8才の少女に具体的に言っていいものかと迷い、途中でやめてしまった。
ディーツアさまは、物知り顔で何度もうなずいて、ようやくちょっと表情を和らげた。
「……何となく、わかりました。フィズさまは未遂ではなかったのですね。しかもお相手が皇帝陛下では、泣き寝入りしかできませんね。大変でしたね。……父は、自分勝手なところはありますが、他人の、特に女性の嫌がることはいたしませんから。安心して嫁いでらしてください。」
本当にこの子は……子供を相手にしているとは思えない。
まるでお姑さん?
……ああ、そうか……。
亡くなられたウーノさまの優しい穏やかな雰囲気は、ちょっと似ているかもしれない。
そう思ったら、私の心も少し和らいだ。
ウーノさまに抱いたような敬愛と親愛の情を、そのままディーツアさまに捧げようと思った。
「ありがとう。……それじゃあ、ディーツアさまも、安心してくださいね。私は、どんなに淋しくても、ブンザくんに懸想したり無理強いすることはありませんし、ディーツアさまの恋の邪魔はいたしませんわ。むしろ応援させていただきますね。」
そう言ったら、ディーツアさまは真っ赤になって、突然踵を返して、パーッと逃げ出してしまった。
……行っちゃった……。
恥ずかしがらせちゃったかな。
子供らしい……というか、少女らしい一面もあるのね……。
ちょっと、ホッとした。
でも、すぐに、ディーツアさまは葉っぱを持って帰ってきた。
そして、ぐいと突き出して見せて、言った。
「カノプリアの葉っぱは、お薬にもなりますが、過ぎると、おかしくなってしまいます。これなしでは、いられなくなります。お酒と同じですが、お酒よりも怖いです。身体より先に、心が壊れてしまいます。」




