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夢に楽土を求めたり 19

海よりも深く反省しよう。

ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!

心の中で何度も謝って、シェナミさまにしがみついて泣いた。


シェナミさまは私の背中を撫でてなだめてくださった。

離れることを嫌がって泣いていると、父もシェナミさまも思っていたみたい。


「大丈夫ですよ。すぐに私も帰ります。結納の準備も始めるよう手配します。あっという間ですから。ね。」

「フィズも、今度こそちゃんと自分でお道具を選んで揃えなさい。ドレスも、宝石も、急がないと間に合わないぞ。」


私をなだめる2人に、涙を振り払って笑顔を作った。


幸せは、もう、そこまで来ていた。



***


カピトーリに戻ると、父は家ではなく、そのまま私をシェナミさまのお住まいに連れて行った。

かつてウーノさまが侍女のカナヴィと細々と暮らしていたモーリさまの小さな別宅ではなく、近くの古家を買って、塾生たちとともに暮らしていらっしゃるそうだ。

……まあ、古いけど……さすがに、掃除の行き届いた趣のある佇まいだった。

門をくぐると、あの日、草を摘んでいた少女は、さらに愛らしく成長して……やはり草を摘んでいた。


「こんにちは。ディーツアさま。以前、お会いした、フィズです。ディーツアさまに葉っぱをいただいて、私は持って行った焼き菓子をあげて……覚えてらっしゃるかしら?」


どう話し掛けたらいいかわからないけれど、しゃがんで、目線を合わせてからそう尋ねてみた。

ディーツアさまは、じっと私を見つめてから、口を開いた。


「ごめんなさい。よく覚えてません。でもあなたのことは、ブンザから聞いています。父をよろしくお願いします。」


少女は、かわいらしい高い声で、大人びた言葉を話した。

多少面食らったけれど、気を取り直して、さらに話しかけてみた。


「こちらこそ、よろしくお願いします。……ディーツアさまは、ブンザくんと仲良しなのね。これから、私とも、仲良くしてくださるとうれしいわ。……その葉っぱ……前にお伺いした塾にもあったよね?ギザギザ。」


するとディーツアさまは、首をかしげた。


「……フィズさまはお父さまと御結婚なさるのでしょう?私のことはブンザがしてくれますから、フィズさまは父の御世話をして。」

「ええと……確かに、シェナミさまと結婚したいと思っているんだけど……ディーツアさまとも家族になりたいの。」

「ふぅん。わかった。」


本当にわかったのかどうか……ディーツアさまは、興味なさそうにそう言って、また葉っぱを摘み始めた。


「……ほう。カノプリアですな。糸になさるのですか?」


遠巻きに見ていた父が、ディーツアさまにそう話し掛けた。

カノプリア……というのは、私には聞き覚えのない言葉だった。



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