夢に楽土を求めたり 18
父の顔が真っ赤になって……怒ってるのか……照れているのか……いや、たぶん、怒っているんだろうな。
さすがに自分が失言を重ねたことに気づいた。
恥ずかしくて泣きそう……。
父の目が怖くて、シェナミさまに助けを求めた。
シェナミさまもまた真っ赤になってらしたけれど……こちらは明らかに父とは違い、興奮してはしゃいでらした。
……よろこんでらっしゃる……。
それがうれしくて、涙がこみ上げてきた。
「フィズ。いらっしゃい。泣かなくていいのですよ。」
差し伸べられた手にすがるように、私はシェナミさまに寄り添った。
頭や頬を優しく撫でてもらい、子供のように安心した。
父の憤怒の形相はしばらくしてようやく和らいだ。
……諦めた……というところだろうか。
ため息をついてから、父は提案した。
「そういうことなら、婚礼の儀を急ぎましょう。結納から婚約式、結婚式と普通なら半年、急いでも3ヶ月はかけるものですが、1ヶ月で進めるつもりで準備いたします。……フィズ、とにかく帰ろう。」
さすがに拒絶することはできなかった。
シェナミさまも仕方ないと諦めたらしい。
「……では、私も、傷口が塞がったらすぐに戻ります。……ああ、そうだ。ジランのいない間、娘のディーツアのことをよろしくお願いします。」
「はい!お待ちしています!……ディーツア……何てかわいい名前……あ……ディーツアって……。」
その名前には聞き覚えがあった。
ディーツアって……そうだ、シェナミさまが前の奥さまのシズーリさまと別れてから、同棲してらした女性がディーツアさまって……私、すっかり勘違いしていたわ。
まさか、お嬢さんのお名前だったなんて。
あ!
思い出した!
もう1人いた!
ウーノさまの侍女のカナヴィ!
あのかたもシェナミさまのお手付きだったとかなんとか……。
「あの……カナヴィは……」
私が何を言い出したのか、父もシェナミさまもよくわからなかったらしい。
「カナヴィ?カナヴィがどうかしたのかね?」
「カナヴィでしたら、母の弔いを終えて、故郷に帰りましたよ。自分も持病があり体調が悪かったのに母のために我慢してくれて……この上、娘の面倒をみてくれとはとても言えませんでした。」
シェナミさまの説明には、何のやましさも感じなかった。
……私、ずいぶんとうがった見方をしていたというか……偏見で凝り固まっていたみたい。
シェナミさまは、心を病んだ奥さまのシズーリさまを実家に帰して、愛人のディーツアさまと暮していたから、かつて関係していたカナヴィのいる実家に帰らない……と、曲解していた。
最低だわ。
私、本当に……シェナミさまに、ものすごく失礼な勘違いをしていたのね……。




