夢に楽土を求めたり 16
しみじみとそうおっしゃるシェナミさまに、私は大きくうなずいた。
「わかるような気がいたします。私は平民ですが、何もすることのない大公子妃としての生活も、宮殿での生活も経験させていただきました。どちらも豪奢で優雅に見えますが……それよりも、神宮院で忙しく立ち働いている日々のほうが充実していました。……貧乏性なのかしら?」
シェナミさまとほほ笑み合っていると、父がさもありなんと頷いた。
「やはり、お似合いということだろうね。……しかし、フィズ。お前は、リョーシャを大公さまに預けてしまったが、シェナミさまはディーツアさまをお育てしてらっしゃるのだよ。お前は、8才の幼女の母親になるという自覚を持たなければいけないよ。」
ディーツアさま……。
そうだわ。
あの時……シェナミさまの私塾にいたかわいらしい女の子が、私の娘になるのか……。
「うれしい。早くご一緒に暮したいわ。仲良くなれますよね?」
笑顔でそう尋ねたら、シェナミさまは優しく微笑んでくださった。
「ありがとう。おとなしい、素直な子です。……父親の私より、ブンザに懐いていますが。フィズなら、すぐ仲良くなれますよ。……では、私も、リョーシャくんにご挨拶いたしましょう。」
びっくりしたけれど、シェナミさまのお気持ちがうれしかった。
「……いつか、……機会がございましたら……」
そう申し上げただけで、涙がポロッとこぼれてしまった。
……普段は考えないようにしていても……やはり我が子のことはつらい。
シェナミさまは慌てて私に手を伸ばした。
涙を拭こうとしてくださって、どこか痛かったらしく、俯いて唸ってらした。
その様子は、おかわいそうだけどやっぱりどこか滑稽で……父も私も、少し笑ってしまった。
「まずはお身体の治療をなさってください。完治なさったらカピトーリで結婚式です。」
父はそう言ってから、小さく咳払いをして、重々しく続けた。
「……それまで野合はお控えください。今度こそ、シェナミさまには、正式な手順を踏んで御結婚していただきます。これはモーリさま以下親戚連中の総意です。結納も、披露宴も、きっちり仕切らせていただきます。」
ヤゴウ、って……何?
聞き慣れない言葉に、キョトンとした。
シェナミさまは、困った顔でぼやかれた。
「再婚同士なのに、そんなたいそうなことをしなくても……。」
「……シェナミさまが最初の御結婚のときに、ないがしろにされませんでしたら、2度めは内々で済ませる流れになりましたでしょうが……。今回はそうはいきません。皆よろこんでいるのですから、諦めて一連の行事におつきあいください。」
そう言いながら、父の頬も緩んでいた。




