夢に楽土を求めたり 12
あとに残された私は……ふらふらと階段を上り、廊下を進み……弊衣先生の寝室へと戻った。
弊衣先生は、小さな寝息をたてて眠ってらっしゃった。
包帯の間から見える、痩けた頬も、落ちくぼんだ目も……あの頃とは全然違う……。
ぷくぷくだったお肉は、どこに落としてしまわれたの?
……戦いの日々で?……それとも……獄中で……?
胸にもやもやが広がり……悲しくなってきた……。
あんなにも不遜だったシェナミさまが、こんな……こんな……いったいどれほどの苦労をされて……苦しまれたのだろうか……。
涙がこみ上げてきた。
あ……。
鼻。
上品な細い鼻梁……これは、お母さまのウーノさまも、トミルお姉ちゃんも……同じだわ。
19年前のシェナミさまの鼻まで覚えてないけれど。
……何だか、不思議。
シェナミさまにイイ印象を全く持ってなかったから……正直、戸惑いは強い。
でも……だからと言って、幻滅するとか、ガッカリはしないものなのね。
いつかご本人の口から、お話を伺えたら……あるいは、昔の印象も変わるのだろうか……。
父やモーリおじさまが、どれだけシェナミさまに金銭的な迷惑をかけられても、愚痴も文句もなくシェナミさまを庇ってらしたことに憤懣いっぱいだったけれど……。
浮名を流し、罪人になり、どれだけ家名に泥を塗っても、ウーノさまが大切に大切に想っていらして……。
……わけがわからず、嫌悪感を抱いていたけれど……今なら、わかるような気がした。
この愛すべきおかたには、どんな時も、悪意も卑しさもなかったのだろう。
だから、みんなに、こんなにも大切にされていらっしゃるのかな……。
私は、枕辺の椅子にそっと腰を下ろした。
眠りを妨げないよう、室内の灯りを落とした。
月明かりに照らされて、白い包帯が浮かび上がった。
……早く……早く、よくなってください……。
神に祈りを捧げて……シーシアさまの言葉を思い出した。
身も心も、結ばれちゃいました……きゃっ!
そんな報告は絶対できないけれど、想像して身悶えした。
……ら、気配を察知されたのだろうか……。
「楽しそうですね。」
弊衣先生……いや、シェナミさまが、微笑んで私を見上げてらっしゃった。
「……ごめんなさい。起こしてしまいましたか。」
恥ずかしい……。
頬を抑えて俯いたら、シェナミさまがそっと手を伸ばして……私の手を取った。
「いえ。謝らないでください。……とても、幸せな気分です。目覚めた時に、愛するフィズがいてくれる……夢のようです。」
しみじみとそう仰るから……ついポロリと涙をこぼしてしまった。
うれしくて。
ただただ、うれしくて!




