ユートピアからの放逐 12
「こんな、立派なもの、いただけません。……豪華過ぎて私にはもったいないです。」
辞退しようとしたけれど、ウーノさまは首を横に振った。
「とてもよくお似合いになると思いますわ。大公さまのご一家に嫁がれるのでしょう?どうか役立ててくださいな。……ここで、私がただ持っていても仕方ありませんもの。」
ありがたいけれど……悲しくなってきた。
「……嫁ぐと言っても……お試し期間の1年か3年で、帰ってくるかもしれませんし。……結納もないし……結婚じゃなくてお仕事みたい。」
「あら。そんなこと、気にしてらっしゃるの?大公さまに限らず、どこの家でも、よくあることですわ。……あまり思い悩まれず、気楽に、新婚生活を楽しんでらっしゃい。御子を授かるかどうかは、ご縁ですから。お気になさらずに。」
「ご縁……ですか……。」
「そうよ。夫婦の仲も、親子の仲も、全ては人知を超越した神のお導きですもの。気に病んでも仕方ありませんわ。……トミルは幸せな結婚をして、子にも恵まれましたが、皆、殺されてしまいました。逆にシェナミは、娼婦に入れあげて家を傾け、親戚に迷惑をかけてどこへ姿をくらましたかと思ったら、いつの間にか勝手に妻子を持つし、離婚するし、国家反逆罪で投獄されるし、まったくどうしようもない子でしたのに、今や宰相さまのお引き立てで、国の新事業を任されて……このトミルの首飾りも、シェナミが方々手を尽くして、見つけて、やっと買い取ってくれたのよ。」
最後は少し誇らしげなウーノさまと対照的に、私はますますシェナミさまの行状にどん引きした。
……マジ、最低……。
娼婦?
妻子?離婚?
どこまでだらしない、酷い男なんだ。
そんな奴が買い取ったと思うと、せっかくの宝石もありがたみが半減するわ。
うんざりしてる私に、カナヴィが慰めるような苦笑を見せた。
訳あり顔に、ピンときた。
……この、たおやかな侍女も、シェナミさまのお手付きじゃない?
もちろん確証はなかったけれど、私の中のシェナミさまの印象はそれぐらい悪かった。
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夜に首飾りを両親に見せると、2人ともその豪華さに驚愕していた。
「すばらしいわ、フィズ。とてもよく似合うわ。ねえ、旦那さま?」
「ああ。我々が今日明日、金を積んで買えるシロモノじゃない。ありがたい。明日にでも私からウーノさまに御礼をしてこよう。……それにしても……さすがはシェナミさまだな。」
……ほら。
これだ。
シェナミさまは、どれだけ悪行を重ねても、先代モーリさまや、うちの父たちに、愛され続けている。




