夢に楽土を求めたり 11
「ほらね。フィズどのに、充分、心を開いているでしょう?……いや、失礼。……そうですね、おもしろがって笑ってしまったお詫びに、僭越ですが、いいことを教えてさしあげましょう。」
「はあ……いいこと、ですか……」
反応に困っている私に、宰相は言った。
「ええ。たぶんフィズどのだけが知らない、いいこと、です。……フィズどのの御父君は、師をよくよくご存じでしたよ。フィズどのと師のご関係については驚いてらっしゃいましたが、とても喜んでいらっしゃいました。」
「どうして……。」
わけがわからず、むしろ困惑した。
「親戚だそうですよ。とても大切な。……フィズどのにとって、だけではなく、御父君にとっても。」
「……親戚?誰が……」
そこまで言われても、私にはぴんと来なかった。
「もちろん、師が、ですよ。……ふふ。本当に覚えてらっしゃらないのですね。それでも惹かれ合われたのは、やはり運命ということでしょうか。ロマンティックですねえ。」
宰相は、私の反応を見逃すまいと、顔を覗き込むように首を傾けてから、仰った。
「師のお名前を教えてさしあげましょう。シェナミ、と仰るのですよ。」
シェナミ……シェナミ?……シェナミ!?
シェナミって、シェナミ?
え!?
あの、シェナミさま?
トミルお姉ちゃんのお兄さんで、ウーノさまのどら息子のシェナミさま?
えええっ!?
だって、だって!
シェナミさまは……もっと……もっと……。
……。
はたと気づいた。
そうだわ。
以前見ていた宰相府発行の広報で、シェナミさまが宰相のお仕事をされていた……。
あれは……弊衣先生のことだったんだ……。
どうして思い当たらなかったんだろう。
……いやいやいや。
全然、面影ないもの。
わかるわけない。
……でも……よくよく考えてみれば……私が覚えているシェナミさまって……え?……最後にお会いしたのって、いつだったかしら。
ええと……トミルお姉ちゃんが嫁がれる送別の宴の時?
……それから、お会いしてないの?
あの時、私は4才。
シェナミさまは、15才年上だから……19才。
19年の歳月が流れていたのね。
その間に、確か、シェナミさまは、勝手に結婚して離婚して、投獄されて……ああああああ……そう言えば、弊衣先生も同じようなことを……。
そうだったの……。
それじゃあ、本当に……あの、シェナミさまなの?
何時までも言葉の出ない私を、宰相さまは楽しそうに御覧になっていたが……満足なさったのか、飽きられたのか……
「得心されたようですね。では、私は、これで。……結婚式には呼んでくださいね。」
そう言い置いて、帰って行かれた。




