夢に楽土を求めたり 10
宰相は、小さくほほえんだ。
「昨夜、ちょうど、我が家で御父君にお目にかかっている時に、フィズどのが襲撃された報せが届きましたもので、とても隠し通すことはできませんでした。」
「えええ……では、父は……。」
「はい。フィズどのが無傷との報告には安堵なさいましたが、師の容態がはっきりしませんでしたので、とりあえず、私が先に様子を見てくることになりました。」
「……そうでしたか……。あの、父は、……その……弊衣先生のことを、どう思ってそうですか?」
思い切って、聞いてみた。
宰相は、ふふふと、笑った。
多少イケズっぽさを含んではいたものの楽しそうだ。
……おもしろがられてる気がする……。
宰相は、ゆっくりと言った。
「とても、心配されていらっしゃいました。」
「……そうですか……。」
そうしゃなくて!!!
と、つっこみたかったけれど、冷静になって、やめた。
弊衣先生がお断りされたのに、私が宰相に頼ってしまうと、結局は仲人をお願いすることと同じことになってしまう。
「では、父には心配無用とだけお伝えください。」
そう言ったら、宰相は楽しそうに言った。
「ご自分でお伝えしては如何ですか?……明日、こちらにお見えになると思いますよ?」
「え!?」
どうして!?
驚いている私に、宰相は言った。
「それだけ、ご心配されているのですよ。」
「でも、私は無傷と伝わっているんですよね?なのに……。」
「……ええ。そうですね。よかったです。」
要領を得ない宰相の反応に、首を傾げた。
もしかして、心配しているのは、……その……シェナミさまからの縁談があるのに、弊衣先生のお側に居続けることかしら?
お父さまは昔からシェナミさま贔屓だから……。
ふくよかなふてぶてしいシェナミさまを思い出し、私はぶるぶると首を横に振った。
大丈夫!
お父さまは、頭ごなしに反対されるかたではないわ。
弊衣先生を理解してもらえば、大丈夫……よね?
……問題は、見た目が……はっきり言って、弊衣先生のほうがお父さまよりも年老いて見えることよね……。
あの白い髪を染めていただこうかしら?
悶々としていると、宰相が堪えきれずに笑い出した。
弾けるように、わははと声をあげて笑う宰相に、驚いた。
笑ってるよ。
心から、笑ってるよ、この人。
ぽかーんと見ていると、宰相はすぐに納めようとしたようだ。
それでも目尻に涙を光らせて、くっくっく……と、笑い続けていた。
「……宰相閣下が笑い上戸とは知りませんでした。」
しばらくしてから、そう申し上げてみた。
宰相はまだ肩を揺らしながら、楽しそうに言った。




