夢に楽土を求めたり 9
「それで、お怪我のほうは?……医師は、どのぐらいで床上げできると?」
宰相閣下の質問に、弊衣先生はうーんと唸った。
「深めの傷口が塞がるまで絶対安静と言われましたので、逆に言えば、傷が塞がれば動けるのではないでしょうか。」
「……簡単に仰いますが、化膿したり、悪い菌が入れば厄介ですよ?塗り薬のみならず、飲み薬も忘れずに飲み続けてくださいね。……フィズどの、師はご自身のことには無頓着でいらっしゃる。薬の管理を、どうかよろしくお願いします。」
「……はい。わかりました。気をつけます。」
意外と心配性らしい宰相閣下に、少し驚いた。
それだけ、弊衣先生を大切に想ってらっしゃるということかしら。
……てことは……私、このまま、弊衣先生のおそばで看病してていいのかしら。
やだ。
頬がにやけちゃう。
にまにましてる私を見つめる弊衣先生の瞳がとても甘く優しくて……宰相は肩をすくめた。
「お怪我が治るまで、お控えください……と言っても、無駄ですね。」
宰相は虚しくぼやいた。
***
その夜、宰相は館に留まることなく、すぐにカピトーリに戻られるとおっしゃった。
やはり、お忙しいのに無理してお越しくださったのだろう。
「……弊衣先生とご一緒のときの宰相閣下は、心の鎧を外してらっしゃるんですね。」
やっと宰相を理解できた気がして、お見送りのときに不敬なことを言ってしまった。
宰相は、苦笑された。
「師を慕っています現れでしょうか。……しかし、自宅で甥といるときも、……フィズどのに対しても、鎧など付けてはいないつもりですが……。」
……そうかしら?
確かに、ジランくんとは仲良し家族なんだろうけど、あくまで保護者だし……宰相が心を砕いて頼れる存在って、今は貴重なんじゃない?
……シーシアさまは……今後もそんな存在にしていただけないのかな……。
宰相さまは、肩をすくめておっしゃった。
「本当は、明日もこちらで、ことの成り行きを見守りたかったのですが……先生に仲人を断られてしまい、面目が立たなくなってしまいました。」
……どういう意味かしら?
2人の時間を邪魔したくないから帰るってこと?
なんか違うな。
「あの……急がなくてもよろしいのでしたら、こちらにいらしてはいかがですか?なにも、とんぼ返りされなくても。……宰相さまのお身体のためにも、ベッドで休まれたほうが……。」
一応引き止めてみた。
宰相は少し笑った。
「ありがとうございます。お言葉に甘えてしまいたいところですが、フィズどのの御父君が心配してらっしゃいますので、とりあえず、帰ります。」
「へ?」
思わぬ返答に、気が抜けてしまった。




