表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/143

夢に楽土を求めたり 2

「温泉の小屋のところです!敵は3人!ヘイー先生を助けてっ!!!」


それだけ叫ぶと、私は地面に這いつくばった。

身体中の力が抜けてしまったみたい。

がくがく震える四股を、どうすることもできず……こみ上げてくる吐き気に耐えて、歯を食いしばり、目を閉じた。


……(とき)の声が聞こえる……。

お願い。

死なないで。

どうか、どうか……生きて……。


執事さんが駆け寄って来て、私に毛布をかけてくださった。


「……ありがとうございます。でも私より、ヘイー先生に毛布を準備してさしあげてください。……温泉の小屋にいらっしゃって……裸で……あちこちから出血して……」


言ってるうちに、怖くなってきて……私は再びがくがくと震えた。


執事さんは、毛布をかけた私の背中をさすりながら、他の使用人たちに怪我人の治療の準備を命じた。


***


しばらくして、鬨がやみ、静寂が広がっていることに気づいた。


「フィズさま。お気を確かに……。終わったようです。」


執事さんの言葉に、私はようやく頭を上げた。


「ヘイー先生は……」


ふらふらと立ち上がり、私は歩きだそうとした。


「こちらでお待ちください!すぐに戻られるはずです。」


執事さんの言葉に緊張感を感じた。

……もし、ヘイー先生が……救援が間に合わなくて……討ち果たされていたとしても、遺体を運んで来る……。

そういう意味が含まれていることを察知して、震えた。

黙って、執事さんが背中をさすってくださった。


まもなく、砂を勢い良く踏む足音が近づいて来た。


「急いで、医師を!それから、宰相さまにご報告を!」


最初に駆けて来た館詰めの兵士が、そう叫んだ。

……医師……。

ということは、ヘイー先生は、生きてらっしゃる!?


私は、執事さんに助け起こされて、背伸びをした。

続いて走ってくる兵士が……グッタリとしているヘイー先生を背負っていることがわかった。


「ヘイー先生!!!」


慌てて駆け寄った。

執事さんが、真新しい毛布でヘイー先生をすっぽりと覆ってくれた。

ヘイー先生は、先ほどよりも血を帯びてらしたけれど……確かに生きてらした!


「フィズどの……。無事でよかった……。ありがとう……。」


意外としっかりした口調に、ホッとした。


「お礼を言うのは私のほうです。よかった。生きていてくださって、本当によかった。……生きた心地がしませんでした。」


言葉と一緒に涙がボロボロと落ちた。


ヘイー先生は確かにほほ笑み、そして、息をついてから、言った。


「……いつ死んでもいいと思って、おまけの人生を送ってきましたが……もう、そうはいかないな。……フィズ……あなたと生きたい。私と……結婚してください……」


突然のプロポーズだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ