夢に楽土を求めたり 2
「温泉の小屋のところです!敵は3人!ヘイー先生を助けてっ!!!」
それだけ叫ぶと、私は地面に這いつくばった。
身体中の力が抜けてしまったみたい。
がくがく震える四股を、どうすることもできず……こみ上げてくる吐き気に耐えて、歯を食いしばり、目を閉じた。
……鬨の声が聞こえる……。
お願い。
死なないで。
どうか、どうか……生きて……。
執事さんが駆け寄って来て、私に毛布をかけてくださった。
「……ありがとうございます。でも私より、ヘイー先生に毛布を準備してさしあげてください。……温泉の小屋にいらっしゃって……裸で……あちこちから出血して……」
言ってるうちに、怖くなってきて……私は再びがくがくと震えた。
執事さんは、毛布をかけた私の背中をさすりながら、他の使用人たちに怪我人の治療の準備を命じた。
***
しばらくして、鬨がやみ、静寂が広がっていることに気づいた。
「フィズさま。お気を確かに……。終わったようです。」
執事さんの言葉に、私はようやく頭を上げた。
「ヘイー先生は……」
ふらふらと立ち上がり、私は歩きだそうとした。
「こちらでお待ちください!すぐに戻られるはずです。」
執事さんの言葉に緊張感を感じた。
……もし、ヘイー先生が……救援が間に合わなくて……討ち果たされていたとしても、遺体を運んで来る……。
そういう意味が含まれていることを察知して、震えた。
黙って、執事さんが背中をさすってくださった。
まもなく、砂を勢い良く踏む足音が近づいて来た。
「急いで、医師を!それから、宰相さまにご報告を!」
最初に駆けて来た館詰めの兵士が、そう叫んだ。
……医師……。
ということは、ヘイー先生は、生きてらっしゃる!?
私は、執事さんに助け起こされて、背伸びをした。
続いて走ってくる兵士が……グッタリとしているヘイー先生を背負っていることがわかった。
「ヘイー先生!!!」
慌てて駆け寄った。
執事さんが、真新しい毛布でヘイー先生をすっぽりと覆ってくれた。
ヘイー先生は、先ほどよりも血を帯びてらしたけれど……確かに生きてらした!
「フィズどの……。無事でよかった……。ありがとう……。」
意外としっかりした口調に、ホッとした。
「お礼を言うのは私のほうです。よかった。生きていてくださって、本当によかった。……生きた心地がしませんでした。」
言葉と一緒に涙がボロボロと落ちた。
ヘイー先生は確かにほほ笑み、そして、息をついてから、言った。
「……いつ死んでもいいと思って、おまけの人生を送ってきましたが……もう、そうはいかないな。……フィズ……あなたと生きたい。私と……結婚してください……」
突然のプロポーズだった。




