ユートピアからの放逐 11
神宮院に入る前の2年間、私はウーノさまにお裁縫や編み物やお菓子作りを教わっていた。
ウーノさまは継母とモーリおじさまの姉で、婚家もかつては我が家と同じぐらい裕福だった。
しかし、早くに旦那さまを亡くし、ご子息のシェナミさまが放蕩して財産を使い果たし借金を重ねられたため、ご商売をお止めになられたという。
さらにシェナミさまの投獄でウーノさまは家も家財道具も売り払い、モーリおじさまが所有する小さな別宅で、周辺の少女たちに囲まれて、カナヴィという侍女と暮らしていた。
……てかさ……、シェナミさま、ご出世なさっているのなら、お母さまのウーノさまにもっと孝行してさし上げるべきなのに……。
「フィズ、おめでとう。どうか、幸せになってくださいね。……トミルの分まで……。」
ウーノさまはそうおっしゃって、涙ぐまれた。
私は、ウーノさまの背中をさすった。
「ありがとうございます。おばさま。」
背骨の存在感に、ウーノさまの積年のご苦労を窺い知られた。
「……ウーノさま。」
遠慮がちに、カナヴィが声をかけた。
「ええ。そうね。」
ウーノさまはカナヴィから、かわいらしい桃色の包みを受け取ると、大切そうに胸に抱いた。
祈りの言葉を唱えてから、私に手渡されたのは、どうやら結婚のお祝いらしい。
「ご存じの通り、我が家には何も残ってないのですが……これを。……トミルの形見です。」
「え!?」
びっくりした。
遺骨も遺髪もないと聞いていたけれど……遺品があるの?
「拝見してよろしいですか?」
逸る気持ちを抑えて、ウーノさまにおうかがいした。
ウーノさまは微笑んで、頷いた。
丁寧に梱包された包みをほどく。
……桃色の端布……ああ、これ、かつて私がトミルお姉ちゃんにもらった巾着と同じ生地だ。
つい数日前にスリに盗られたことを思い出し、同時に、白髪先生のことをやっと思い出した。
しまった!
すっかり忘れていた!
お礼を持って行かなきゃいけなかったんだ。
えーと……タルゴーヴィへ出発するまでに、行ける日、あるかしら。
あと3日だから……わー、けっこうやばい!
多少罪悪感にさいなまれながら、中身を取り出した。
赤いキラキラした宝石が繊細な細工のように並んだ、とても美しい首飾りだった。
「すごい……。なんて美しい……。」
一目見ただけで、高価なものだとわかった。
……トミルお姉ちゃん……最期は悲惨だけど、向こうでちゃんと豊かに幸せに暮らしていたんだなあと想像できて……少し泣けた。




