シャングリラはそこに 21
思いっきり顔をしかめた私を、継母がお小言で、父が苦笑で、窘めた。
めんどくさいので、私は適当に言って家を出た。
「はいはいはい。考えとくから!とにかく、いってきます!」
両親の顔の前で、扉を閉めると、逃げるように馬車に乗り込んだ。
***
馬車は東へ東へと進んだ。
……シーシアさまの夢の通り……東に行くのね。
ちゃんと、ヘイー先生にお会いできるかしら。
ドキドキする。
川を越え、山を越えて、カピトーリの町を出た。
小さな里のある盆地を通り抜けて、かつては関所のあった山を越えると、そこからがオーゼラ公国だ。
眼前に広がる海のように大きな湖に、思わず声を挙げた。
波がキラキラと輝いていた。
「オーゼラの城下町に第一の宿場町がございます。まだ早いですが、休憩されますか?」
馭者の騎士さまに尋ねられたけれど、先へ急いでもらうようにお願いした。
さらにしばらく進んだところに、先ほどよりも大きく、賑やかな宿場町があった。
「馬を休ませたいので、ここで我々も昼食にいたしましょう。」
騎士さまにそう言われて、はじめて空腹を覚えた。
私が旅宿の一室で豪華なお昼ご飯をいただいている間に、騎士さまは馬たちの世話をし、ご自分の昼食を済ませ、しかもヘイー先生の目撃情報をも得てきてくださった。
もしかしてめちゃくちゃ優秀なかただった?
さすが宰相閣下……。
たぶん、この行動すべてを逐一報告させてるんだろうなあ。
ちょっと息苦しいけど、気にしない!
「お探しのヘイー先生も、やはり、こちらの宿場町に寄られたそうです。馬を乗り換えられたとか。……お急ぎのようですね。」
「そうでしたか。では途中で追いつけそうにはありませんね。焦らずゆっくり行ってください。」
……そうは言ったものの、気が急いているのは、騎士さまではなく私のほうだ。
食事を終えるとすぐにまた馬車に乗り込んだ。
***
大きな太陽が沈み、あたりが暗くなった頃、ようやく湖畔の白い館に到着した。
「素敵。小さなお城ですね。」
美しい建物にうっとりした。
「この建物は、元オーゼラの貴族の館で、異世界人がよく滞在したと聞いています。宰相閣下も何年もお住まいだったとか。」
騎士さまの説明に頷きつつも、私の足は勝手に馬車を降り、館へと急いだ。
慌てて、荷物を持った騎士さまが追ってきて、扉を叩いた。
中から出てきたのは、見覚えのある紳士然とした執事さん。
「お待ちしておりました。フィズさま。」
そうだ。
宰相閣下のご自宅にいらした執事さんだわ。




