シャングリラはそこに 15
自分の気持ちに自信がない。
でも、ひとつ言えるのは……ジランくんは好きだけど、宰相と夫婦になることは、ちょっと考えられない。
……なのに、どうしてかしら。
ヘイー先生との暮らしは……何となく想像ができるような気がした。
「……何をしてらっしゃるかただね?」
先ほどと少し違う質問をされると、落ち着いて答えることができた。
「私塾で教えたり、お魚の養殖場を作ったりしてらっしゃるようです。」
「魚……。では、もしや、うちで預かっているあの魚たちは、そのおかたからいただいだのかい?……では、お前……ジョージオさまがいながら、そのおかたに心を移したのかい?」
父の指摘に、慌てて首を横に振った。
そして、力強く言った。
「違います!ヘイー先生と初めてお会いしたのは、まだジョージオさまにお目に掛かる前です。」
「へいい?……ずいぶん、変な名前だな。別のお国からいらしたかたなのかい?まさか……異世界人か?」
「え……違うと思いますけど……」
先日お逢いした時に、ヘイー先生はご自分の過去の罪を悔いてお話しくださった。
オピリアの妹さんを救いたくてカピトーリと闘ったと。
……異世界人じゃないわよねえ?
でも確かに、ヘイーって、何だろ。
最初に何の疑問も持たなかったけれど……変な名前ではあるわね。
「……今度、お逢いしたら、いろいろ聞いてみます。……自分の気持ちも……お父さまがおっしゃるような恋愛感情なのかどうか、確認してきたいと思います。ですから、今は……これ以上は、もう、聞かないでください。……本当に、私も、よくわからないのです。」
ハッキリそう言ったら、父はガックリと肩を落として、ため息をついた。
***
父の帰ったあと、シーシアさまのお部屋をお訪ねした。
……宰相のことをお好きなシーシアさまに、この縁談のことをご報告するのは非常に心苦しかったけれど……内緒にして、後でバレるのは、もっと気まずい。
誠実でいたいので……勇気を振り絞って、私はシーシアさまに対峙した。
シーシアさまは感情を押し殺した声でおっしゃった。
「……ご用件はわかっています。ティガがフィズの親御さんに縁談を申し入れたのでしょう?……ティガから聞きました。……いろいろ葛藤はあるでしょうが……ジランもフィズに懐いています。……フィズになら、わたくしの大切な従兄たちをお任せできてよ。……わたくしに変な遠慮することなく……いいお返事をしてさしあげてくださいね。」
震える唇から紡ぎ出された言葉はとてもお優しいけれど……、とてもご本心とは思えなかった。




