ユートピアからの放逐 10
……はあ?
何て言った?
継母の言葉を反芻して、私は眉をひそめた。
「つまり……正式な結婚は、子供を出産してから?……それは、縁談とは言わないのではありませんか?」
まるで後宮に入るようなものじゃないか。
……いや、もちろん、宗教と法律で、皇帝以外の何人も後宮を持つことは許されていないことは、よくよくわかっている。
しかし、富裕層の多くが、公にしないだけで、妻以外の愛妾を持ったり、使用人に手をつけたり、あるいは他家のご夫人や未亡人とのアバンチュールを楽しんでいたり……残念ながら、実情はそんなものだ。
大公のご子息がそんな条件を出すからには、後宮ばりに複数の女性がいて、誰が一番早く出産するかを競っているのだろうか。
こわっ。
ふるると震えた私を継母が気遣った。
「大丈夫?寒いの?……何か羽織るものを……」
「いえ、寒くないです。ちょっと身震いしただけです。……私は、大公さまのご子息の寵愛を、他の女性と争わなければいけないのでしょうか?」
思い切って、聞いてみた。
継母の顔がキョトンとした。
……違うの?
父が、慌てて否定した。
「まさか!そんなことはない!絶対ない!フィズが行っている間はフィズだけだ。」
「……そうですか。」
少し、安堵した。
「では、花嫁候補として大公さまのご子息のもとへ行き、子供ができたら、結婚式を挙げるということですね?……期限は?」
何だか結婚ではなく、試験を受けるような気がしてきた。
私が意外と前向きらしいと思ったらしく、両親の顔が、あきらかにホッとしている。
おそらく、私が嫌がったところで、断ることのできない話なのだろう。
「とりあえず1年、最長3年ですって。もちろん、帰りたくなったら、いつでも帰って来ていいのよ。」
「1年か3年……。」
それだけあれば、子供を授かることは可能な気がする。
「……わかりました。」
私の承諾に、両親はようやく頬を緩めた。
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翌日、父がタルゴーヴィ大公府へ返事に上がると、話はトントン拍子に進み出した。
日を置くことなく、大公府長官が、契約書と仕度金を持って我が家に来た。
花嫁道具も服も何も持って来なくていい、全て大公家で準備している……とのことだが、それでも継母は私の衣類や身の回りのお道具を求めてカピトーリ中を奔走した。
私はと言えば、3日後のお輿入れまで特にやることもないので、久しぶりにトミルお姉ちゃんのお母さまのウーノさまを訪ねた。




