シャングリラはそこに 12
ジョージオさまと離婚してから、約1年。
私は、以前よりたくさんの縁談を持ちかけられているらしい。
まあタルゴーヴィ大公さまのおかげで過分なほどの持参金と化粧料地持ちだし、身分も地位も大公家の嫁の時のままだし……いろんな階級の人達から引く手あまたというところのようだ。
……もう見知らぬ人に嫁ぐことは怖い……と、父にお願いして全部断わってもらっているのだが……
父はふるふると首を横に振った。
「今回ばかりはそういうわけにはいかないんだよ。フィズ。……お前もお世話になっているようだし……モーリさまに御相談申し上げたところ、これまでのように無碍にお断りすることは決してないようにと釘を刺されてしまって……とにかく、お前に伝えて、なるべく前向きに検討して欲しい……と……」
とても父の顔も声も、前向きではなかった。
断りにくい人だけれど……父は乗り気じゃない……ってこと?
ドキドキしてきた。
……いや。
むしろ、震えが……やばい……。
思い切って、聞いてみた。
「あの……もしかして……皇帝陛下……では、ございませんよね?」
まさかとは思うけど、後宮に入るのではなく、第二夫人に請われてしまったのだろうか。
父は、ちょっと困ったような顔になった。
「ああ、それは……。確かに、少し前に、そんな話もいただいたが、タルゴーヴィ大公さまに御相談申し上げたら、断わってくださったよ。……フィズに知らせて、悩ませる必要もないとおっしゃったので、言わなかったが。」
「そうですか。ありがとうございます。」
やっぱり、陛下はまだ悪あがきをされていたのか。
……ずいぶんご執心のようだったけど……本当に私を王妃の1人にと望むとは……。
げんなりしたけれど、悪いものを振り払うように、私は首を横に振ってから姿勢を改めた。
「それでは、今回のおかたは、……タルゴーヴィ大公さまはご反対されませんでしたの?」
父の顔は、ものすごく困っていたが、渋々といったていでうなずいた。
「……どなたですの?」
思い切ってそう尋ねると、父は、周囲を少しうかがってから、声をひそめて言った。
「宰相さまなんだよ。……どう、思う?」
宰相!!!
宰相って、あの、宰相ティガよね?
えええ……。
さすがに、私も動揺……というか、びっくりした。
「……宰相が……。」
言葉が、出ない。
いや、もちろん、お世話になっている。
でもまさかそんな……。
「……宰相の甥御さんのジランくん……じゃあないですよね?」
冗談を言ったつもりはなかったが、つい聞いてしまった。




